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基軸通貨でなくなったってたいしたことない:ポール・クルーグマン

ポール・クルーグマン教授が、いつものようになりふり構わず自分の推す政策を正当化している。
今回のテーマは主要準備通貨としてのドルの地位だ。


いつか何かが起こり、ドルを現在の支配的地位から降ろす可能性は十分にある。
以前はユーロが競合相手となると考えていたが、欧州の問題を考えると今のところ可能性は低い。
それでも、貨幣にかかわることに永遠はない。

クルーグマン教授がThe New York Timesで、主要準備通貨の地位は永遠に続くとは限らないと述べている。
一般論としても、個別論としても、主要準備通貨が変わりうることを認めている書き方だ。
教授は、ドルが主要準備通貨であるがゆえに得ている《法外な特権》を一部認めている。

「米国の現金を外国人が保有したがっているため、世界は莫大なお金(おそらく兆ドルのオーダー)を米国に金利ゼロで貸している。・・・
したがって、米国はドルの特殊な役割からいくらか優位性を得ている。
しかし、それは米国の力の主因ではない。」

クルーグマン教授がこのコラムを書いた趣旨は2つありそうだ。
1つ目は暗号資産村に対し釘を刺すこと。
ドルの支配が終わり、暗号資産が取って替わるというホラ話を腐すことだろう。

そして、もう1つは、自身が推す拡張的金融・財政政策に対する批判への反論だ。
批判の多くは、拡張的政策がインフレやドルの減価を起こすという主張を含んでいる。
仮にドルが主要準備通貨の地位を失えば、米国はドルのシニョリッジ等の恩恵を失いかねない。
これに対して反論をしたいのだ。
クルーグマン教授は3枚ほどチャートを見せて、議論を締めくくっている。

ドルは最終的にその支配を失うだろうか?
Yesだ。
それは重大か?
あなたが気づくほど重大ではない。

これまで米国が是としてきた「強いドルは国益」という考えを事実上否定するにはやや簡単すぎる議論に思われるが、それはノーベル賞を取るぐらいだから、問題ないのだろう。
ただ、1つ気になるチャートがあった。
クルーグマン教授の結論にとって最も大きな根拠となっているチャートであり、それはポンド/ドルの実質為替レートである。

ポンド/ドルの実質為替レート(出典:ポール・クルーグマン教授のコラム)

このチャートをクルーグマン教授はこう読んでいる:

ポンドは、世界の通貨を止めて以来、それまでよりもはるかに強くなっている。・・・
世界の通貨としての地位を失ったことで大きな違いを生んだという証拠はない。

この後半の部分の指摘は正しいだろう。
ポンドが主要準備通貨でなくなったがゆえに、為替レートに大きな変化があったとする証拠はない。
しかし、ポンドが以前より強くなったとする話は、多くの人々にとってイメージと真逆なのではないか。
クルーグマン教授のデータはFRBのサイトから取ったものだ。
そこで、同じサイトから、ポンドの実質実効為替レート(ナロー・ベース)を見てみよう。

英ポンド(青)、米ドル(赤)の実質実効為替レート
英ポンド(青)、米ドル(赤)の実質実効為替レート

このチャートのメッセージは真逆だろう。
ポンドは減価しており、これはほとんどの人の記憶とあっているはずだ。
なぜ真逆の結論になるかといえば、クルーグマン教授がポンド/ドルという2通貨間の為替だけを見ているためだ。
同時期にドルの実質実効為替レートも低下しており、つまり、クルーグマン教授のグラフは縦軸が時間とともに伸びていくように描かれているのだ。

クルーグマン教授が、ポンド/ドルを使った理由は、もしかしたら、主要準備通貨がポンドからドルに替わったためかもしれない。
新たな主要準備通貨を建値としているのだからこれでいいといいたいのかもしれない。
そのロジックを否定するつもりはない。
ただし、それと相反するデータが存在するなら、少なくともそれを提示し議論すべきだろう。
イギリスの人たちは、対ドルでポンド安を感じなかったかもしれないが、その他の通貨の大半に対してポンド安を感じてきたのではないか。
通貨の絶対的価値を論じる上で、実質実効為替レートは決しておかしな代理指標ではない。
少なくとも2通貨間の為替レートよりは適切であるとの主張もありうる。

クルーグマン教授の意見がバイデン政権にそのまま反映されるわけではなかろうが、もしも影響を与えるなら、米ドルはやはりかなり危ない通貨になるのかもしれない。
教授の願いとは、準備通貨の地位など気にせずにどんどんお金を刷って使おうというところにあるのだから。
もっとも、アメリカ人からすれば、日本人にだけはこういう話をされたくないと考えているだろうが。


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