国債買い入れ復活なら大問題:木内登英氏

元日本銀行審議委員の木内登英氏が、日銀に残された追加緩和の手法について検討している。
日銀が国債買い入れに回帰すれば、最悪グローバル金融危機の引き金になりかねないという。


緩和カードを温存したい日本銀行にとって、そこまでのつなぎ、いわば時間稼ぎの施策として活用を検討しているのが、フォワードガイダンス(政策方針)の漸次的修正なのではないか。

木内氏がダイヤモンド・オンラインで書いている。
「フォワードガイダンスの漸次的修正」とは、長短金利ターゲットの期間を「当分の間」から「少なくとも2020年春頃まで」(4月決定会合)、さらに後ろ倒しにすることだ。
FRBが今後実際に緩和に舵を切っても、日銀にはほとんど(リスクなく実行可能な)追加緩和の余地がない。
だからぎりぎりまで文言の変更で堪えようとするだろうとの見方だ。

しかし、これだけで将来の困難に対応し切れるものではない。
その場合には別の手当てが求められよう。
ちなみに木内氏は、そうした困難の例を3つ予想している:
・「世界経済の後退局面入り」
・「1ドル100円に接近する円高」
・「政府による巨額の景気対策」
リスク・オフの円高》の傾向は続いているから、木内氏はこの3つの事象が「ほぼ同時に生じやすい」と想定している。

同氏の辛口の分析が続く。

日本銀行には有効な緩和策は残されていないとの指摘も多いが、彼らにとって政策効果についてはもはや重要ではないだろう。
景気情勢の悪化に対して、政府と協調しながら追加緩和策を実施したという、いわば証拠づくりがより重要となる。

辛い・・・、辛すぎる。
あたかも安倍首相の「やってる感」のような話だ。
もっとも、黒田総裁は超一流の財務官僚だったのだから、その気にさえなれば、政治家たちに対する腹芸などお手の物なのだろう。

さて、木内氏は、日銀が採用できる「証拠づくり」について、2016年9月に日銀が示した選択肢が候補になるといい、その順番が優先順位になると推測する。

「(1)マイナスの短期金利の引き下げ
 (2)10年金利目標値の引き下げ
 (3)ETF(指数連動型上場投信)などリスク資産の買い入れ増額
 (4)マネタリーベースの増加ペースの加速」

木内氏は「あらゆる追加緩和策はその副作用が効果を上回って」いるとし「強く反対したい」としている。
とはいえ、これまでの日本を見てきて、景気後退や円高に対して日銀が静観できた例はほとんどない。
一方、最優先の選択肢と見られる(1)マイナス金利の深掘りについては世間の評判がひどく悪い。
2016年1月のスタートやECBでの例があまりにも不調に終わったためだ。
かといって、短期金利を引き下げずに(2)長期金利を引き下げる(人為的なイールド・カーブ逆転)のもいろいろ弊害が出そうだ。
(3)ETFやREITを買ったところで刺激策としての効果は限定的だろう。
すると「総括的な検証」で後退させたはずの(4)国債買い入れの増額に回帰するのだろうか。


木内氏は(4)を「最悪の手段」とし、政府に求められるまま選ばないことを「強く願っている」と書いている。

仮に日本銀行がこれを受け入れれば、過去3年弱に及ぶ国債買い入れ減額という事実上の正常化措置は、台なしになってしまう。
さらに国債市場の流動性が極度に低下し、市場のボラティリティ(変動率)が著しく高まるリスクが生じるだろう。
最悪の場合、グローバル金融危機の引き金となる可能性さえあるのではないか。

国債買い入れについては理屈の整理をしないといけない。
異次元緩和開始時には、国債買い入れによるマネタリー・ベース拡大により物価が上昇すると目論まれていた。
マネタリー・ベース拡大が人々のインフレ期待を押し上げ、それが実際の物価を上昇させるのではないかとの(期待を考慮する)ニュー・ケインジアン的な考えによるものだった。

しかし、マネタリー・ベース自体に物価を上昇させる効果はない。
日銀が国債を買い入れても、日銀のバランスシートに国債と当座預金が両建てで載るに過ぎない。
いわば《見せ金》にすぎないのだ。
(この当座預金(市中銀行から預かっている)が引き出され誰かが使った段階で、それがマネーストックとなり、信用創造やリフレに寄与することになる。)
マネタリー・ベース自体は経済モデル中ほとんど意味をなさないのに、その変数によって期待を誘導するのには無理があった。
だから、日銀も優先順位を大きく後ろに下げたのだ。

一方、国債買い入れに効果がないわけではない。
とりわけ長期の国債を買い入れれば(2)長期金利の引き下げになり、金融緩和効果が得られるだろう。
しかし、現状はすでに長期金利は水面下に沈んでいる。
ここからは副作用への配慮が重要になる。

FPではそれでも木内氏が恐れているシナリオが実現すると予想する。
それは、金融・財政政策の完全な連動、つまり事実上のマネタリー・ファイナンスを求める声が高まるだろうからだ。
これをやれば、一時的な景気底上げとともにリフレの効果を発揮するかもしれない。
両政策を完全に連動させることで《見せ金》が実際に経済に流れ込むことになるからだ。

一方で、景気後退期にこれを実施したところで経済が異なるレールにワープすることなどなかろう。
財政が悪化する分、後で付けを払うことになろう。
また、リフレが成功してしまえば、それこそ厄介だ。
数年ぶりの2%消費増税に反対する国民が多い国で、毎年2%の物価上昇となれば、それこそ社会問題化する。
その時、日銀は金融政策を正常化できるのか。
そう思いを巡らすと《永遠に未達の2%》が日本にとってのゴルディロックスなのではなかろうか。


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