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ジョセフ・スティグリッツ 単なる需要不足ではない:ジョセフ・スティグリッツ
2020年3月25日

ジョセフ・スティグリッツ教授が、コロナ・ショックに対する政策対応について注文をつけている。


これは、需要不足に陥った2008年、大恐慌、その他の停滞期とは異なる。
人々にお金を配っても、それで飛行機に乗るわけではない。

スティグリッツ教授がThe Philadelphia Inquirerで、コロナ・ショックの特殊性を説明した。
問題はウィルスによって経済活動が委縮していることにあるとし、単純な需要不足と考えるべきでないと主張している。
多くの人が刺激策の話をしているが、たとえ2008年には適切だった政策でもやり方を変えるべきと注文をつけている。

「数千ドルずつみんなに配るのはとても重要なことだ。
お金がないことの帰結、最悪の帰結を確実に緩和しなければならない。
立ち退き、差し押さえ、高金利の累積がないようにし、学生ローンを猶予するなどだ。」

日頃のスティグリッツ教授の言動からいって驚きはないが、教授はヘリコプター・マネーに工夫を加えたようなものに前向きだ。
雇用主に、従業員の就業のいかんにかかわらず給与を支払わせるやり方を提案している。
従業員が働いていない場合は、その分を政府が補償すればよいという。
これは、無作為に現金を配るヘリコプター・マネーではない。
よりターゲットを絞った支援策だ。

スティグリッツ教授が、ヘリコプター・マネーや、それに工夫を加えたものに前向きなのには理由がある。
それがトリクルダウンでなくボトムアップであるためだ。

(リーマン危機からの)回復期の当初3年に得た重要な教訓がある:
所得の増加の91%はトップ1%に行ってしまう。
トリクルダウンは起こらず、何百万の人が家・職を失い、ひどく苦しんだ。

スティグリッツ教授は、企業と雇用のどちらを救うのかを明確に意識すべきと考えている。
現実にトリクルダウンが起こらないのだから、直接困っている人を救いにいくべきなのだ。

さらに、航空業界など救済せざるをえない企業を救済する時には、リスクに見合うアップサイドをとれるよう、ワラントか転換社債を取得すべきと書いている。
同様のことはスコット・マイナード氏も言っていた。
ガチガチのプログレッシブ・リベラルとガチガチの保守が同じことを言っている。
ニュー・ケインジアン(ネオ・ケインジアン?)の学者とサプライサイダーの投資家が同じことを言っている。
リーマン危機は米国を少し賢くしたようだ。

スティグリッツ教授は、危機後の財政再建についてこう話している。

それは優先順位の問題だ。・・・
明かなのは、戦争で攻撃されれば、財源を見つけ出すということ。
これは戦争のようなものなんだ。

教授の言うことは正しい。
今は財政を心配する時ではないし、財政を心配して困っている人たちへの支援をケチってはいけない。
その一方で、後になれば財政問題は避けて通れないし、精神論だけで解決する問題ではない。
不思議なことに、財政を使う時には「戦争」を持ち出す人が増えるが、財政を引き締める時に「戦争」を持ち出す人は少ない。

スティグリッツ教授の場合、ご都合主義というより固い信念があっての発言だ。
教授はかねがね日本に(過去にさかのぼる)ヘリコプター・マネーを奨めている。
良く言えば現実的、悪く言えば少し無責任な人なのである。
それもこれも、優しさゆえなのだろう。


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