加藤出氏:雨が降り出す前に

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東短リサーチの加藤出氏が、J.F.ケネディ大統領の議会演説を引用したクリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事の講演についてコメントしている。
好景気のうちの改革が望まれるのに、そうした気配が感じられない点に危機感を抱いている。


ラガルド氏が引用したのは、1962年のケネディ大統領の言葉だ。

太陽が出ている間に屋根は修理しなければならない

加藤氏は毎日新聞で、ラガルド氏のメッセージを代弁している。

「今こそ屋根を修理すべき時だ」

景気は循環するものだから、景気がいいうちに長期的な成長に資する構造改革に取り組むべきとのもっともな主張である。
再び雨が降り始めれば、経済は痛みを感じ始める。
すでに痛みを感じている時に、さらに痛みをともなう改革を実行することは政治的に受け入れられにくい。
政治が大衆迎合的に傾けば傾くほど、この傾向は高まるだろう。

ラガルド氏は講演の中で、金融・財政政策について興味深い発言をした。

「金融政策が引き続き、回復を後押ししなければなりません。
同時に、緩和的な金融環境のせいで、市場に自己満足が生じ、民間部門の過剰債務など脆弱性が高まる可能性があります。
ですから、各国の中央銀行は計画を明確に説明し、金融政策の正常化をそれぞれの国に適した形で円滑に実行していく必要があります。」

金融政策で景気を支え続ける必要があるとしながらも、金融政策正常化の必要性を指摘している。
つまり、景気をオーバーキルしない範囲で、金融政策を引き締め側にシフトしろと言っているのだ。
各国の中央銀行に「計画を明確に説明」するよう促している点も注目に値する。

そして話は財政政策に及ぶ。

「金融政策の有効性が最も高いのは、長期的かつ持続的な経済成長を促進する健全な財政政策と組み合わせられたときです。
・・・
公的債務が大きすぎる国々では、経済成長がもたらしているこのチャンスを活かして、公的債務の対GDP比率を減らし、レジリエンスを高めなければなりません。

以前、緊縮好きと非難されたIMFらしいと言えばそのとおりだろうが、極めて常識的な見解だ。
では、こうした国際機関の公式見解に照らして、我が国はどうなのか。
財政政策が経済安定化政策であるなら、景気が悪い時に財政出動し、景気がよくなれば財政健全化によって債務水準を元に戻すべきだ。
しかし、日本の財政政策とは基本的にばら撒く一方になっている。

加藤氏はこう嘆く。

「我が国の衆院選挙に向けた与野党の議論を聞いていると、『今こそ屋根を修理すべきだ』といった姿勢はほとんど見られない。
ラガルド氏は『10年後に振り返ってみれば、どの国がこの瞬間をチャンスとして生かせたかがわかるだろう』と“予言”していた。
今のままでは日本は『チャンスを生かせなかった国』の方に入ってしまうのではないかと懸念される。」

この四半世紀、日本がほぼ一貫して金融緩和と債務拡大を許容してきたことを考えれば、これは「懸念」ではなく、ほぼ確定的な将来だろう。
上げ潮派の人たちは25年続けても結果が出ないおとぎ話をまだ語り続けている。
政治家のレベルが低いのか、国民のレベルが低いのか。

歪みの少ない増税を望む国民も多いだろうに、どういうわけだかそうした声はなかなか政治に反映されない。
こうした硬直状態を解消するには大きなショックが必要なのだろう。
たとえば、インフレが予想外の昂進を見せ、名目金利が上昇、予算策定に支障が出るようなイベントだろう。