海外経済

前世代のパラダイムは終わった:ローレンス・サマーズ
2020年10月18日

ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、金融政策一辺倒のパラダイムが終わり、財政も用いる新パラダイムが始まったと話している。


IMF専務理事の発言は称賛されるべきだ。
現在は、記憶されるべきとても重要な時点になるかもしれない。

サマーズ氏がBloombergで、IMFの変化について好意的なコメントを述べた。
ゲオルギエバIMF専務理事は14日のIMF・世界銀行総会において、各国が財政政策の終了を急ぎすぎれば世界経済が深刻な打撃を受けると心配した。
各国財政の持続可能性を重んじることが多かったIMFだけに、これが変化と捉えられたようだ。
(現在の状況を考えれば、当たり前のように思う人も多いだろうが。)

サマーズ氏は、マクロ経済政策のパラダイム・シフトが起こりつつあると話す。
前回これが起こったのはボルカー・ショックの時だったという。

「1970年代終わりにポール・ボルカーがFRB議長になった頃から、マクロ経済政策において地殻変動的な変化があった。
インフレが中心的問題であり、独立した中央銀行こそ重要とする方向だった。」

サマーズ氏は今「新たな革命の時期を迎えつつある」という。

今回の心配は顕著なデフレ圧力だ。
過剰な需要ではなく、需要不足だ。
金融政策だけでなく財政政策にも注力すべき。
ケインズ経済学にバックトゥザフューチャーすることが重要だ。

サマーズ氏は、こうした変化がIMFだけでなく世界の中央銀行コミュニティですでに共有されていたと話す。

  • パウエル議長: 財政刺激策の重要性
  • イエレン前議長: 趨勢的停滞論の肯定
  • ラガルドECB総裁: 財政刺激策の支持
  • 黒田総裁: 金融・財政政策の強調

多くの人が理解していないが、前世代のパラダイムは終わった。

世界経済という構図でいえば、確かにこうしたパラダイム・シフトのようなものが認められるのかもしれない。
特に、過去10年は金融政策に過度に依存する傾向が強かったから、コロナ対策の財政出動は大きな変化だ。
早くから21世紀の趨勢的停滞論を主張してきたサマーズ氏の意見が、皮肉にもコロナ・ショックによって受け入れられつつあるともとれる。
一方、日本人からすれば10、20、30年前からの風景のようにも見えなくない。
いろいろ不満はあろうが、日本は過去30年そこそこ金融も緩和し、財政もふかしてきている。
現在、財政政策が必要であることは異論なかろうが、新たなパラダイムが人々の望む未来を約束してくれるとは限らない。

サマーズ氏は、新たなパラダイムが目指すべきものを語る。

「今は新たなパラダイムにあり、そこで注力されるべきは、経済における適切な需要の確保、適切な公正さの確保にある。」

サマーズ氏は需要不足というが、コロナへの対処が進むにつれ問題は需要でなく供給の側に移るかもしれない。
特に保護主義やサプライチェーンの分断は供給側に制約を及ぼす可能性がある。
そうなれば、ケインジアンでなくサプライ・サイダーのような考えを取り入れるべき時もそう遠くなくやってくるかもしれない。
一方「適切な公正さ」はより重要なテーマであろう。
アメリカン・ドリームの必要条件となるのは機会が公平に与えられることだ。
目先の経済よりもこちらの方を重視する国民も多いはずだ。

サマーズ氏が今新たなパラダイムと呼んでいるのは、ヘリコプター・マネーやMMTのようなものと似通っている。
同氏はこうしたやり方には批判的だった。
今回の発言は、こうしたやり方をやや肯定しているようにも響く。
しかし、本人も諸手を挙げて喜んでいるわけではなさそうだ。

このパラダイムの全貌がどうなるかはまだわからない。
私たちはこれにともなうリスクも勘案しなければならない。
低インフレに向け遷移して以来悲惨な景気後退となったように、リスクもあるんだ。
でも、私たちはとても新しいパラダイムに向かっている。

金融緩和に余地があるかどうかは意見が分かれるところだ。
ただ、余地の大きさを追加緩和の効果で測るなら、過去より現在の方が格段に余地が小さくなったのは間違いないだろう。
仮に金融緩和自体に現状維持以上大きな効果を望めなくなる場合、新パラダイムではもっぱら財政刺激策を用いるイメージになる。
金融政策はそれを支援するために、もっぱら財政赤字をマネタイズする、いわゆる財政従属が実現するのだろう。
このMMT的、かつてのジンバブエ的な展開は、家計や投資家に何をもたらすのだろう。

サマーズ氏が聡明かつ老獪なのは、常にTPOをわきまえているところだ。
Bloombergという金融メディアの視聴者向けに、心憎いメッセージを加えている。

理解し市場で儲けたい人たちは、世界がどうなるのか理解したいなら、慢性的低金利・慢性的需要不足・財政政策への依存の大幅増・過去の中央銀行の高い独立性を勘案しないといけない。
いくつはコロナ・ショックによるものだが、多くはコロナ前から存在しコロナウィルス・ワクチンができてからも長く続くだろう。

財政出動が続き、短期間では終わらない可能性もある。
財政政策がふかされている間は(ファンダメンタルズがマイナスの要因となっていても)財政政策の要因は市場にプラスと見ざるをえないだろう。
しかし、それが終われば、あるいは終わりが予感されれば話は変わる。
最近ボルカー・ショックの前、「株式の死」といわれた1970年代の話題が多く語られるのも、新パラダイムの次を念頭においた懸念なのだろう。


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