ブリッジウォーター・アソシエイツのレイ・ダリオ氏が執筆中の新著『変わりゆく世界秩序』(仮訳)から、米帝国の章の前編、第2次大戦以降の部分を紹介しよう。
私はドル切り下げのことをよく覚えている。・・・
テレビを見ていたら、ニクソン大統領が、ドルの金への紐づけをやめると言っていた。
私は思った:『なんてことだ、私たちが知っていた貨幣システムが終わろうとしている。』
そしてそうなった。
ダリオ氏が1971年のニクソン・ショック(ドル・ショック)のことを自身のSNSで回想している。
発表がなされたのは日曜日。
当時、同氏は22歳、ニューヨーク証券取引所での場立ちの仕事についていたという。
翌日、ダリオ氏は急落を覚悟しつつ職場に向かった。
仕事に出かける時、市場が大混乱に陥り株が下落すると予想していた。
確かに大混乱にはなったが、しかし、株は上昇した。
若かったダリオ氏はもちろんそれまでドル切り下げを見たことがなかった。
だから、方向性を見誤ったと悟る。
そこで、歴史を遡って同様の事例を探したのだという。
「歴史を紐解いて1933年3月5日の夜のことを見つけた。
同じく日曜日だったが、フランクリン・ルーズベルト大統領が本質的に同じスピーチをし、本質的に同じことを言っていた。
その後数か月、本質的に同じ結果をもたらしている(ドル下落、株価大幅上昇、金価格大幅上昇)。」
1933年3月5日とはルーズベルト大統領就任の翌日。
金本位制を離脱しニューディールが開始された。
金本位制離脱とは貨幣増発を意味し、ニューディールとは大規模財政政策を意味する。
ダリオ氏は4月、現在と当時が似ていると話している。
ダリオ氏は、こうした事例はそれだけではないとし、いくつか最近の事例を挙げている。
- 2008年のQEの宣言
- 2012年のECBによる大量貨幣発行・国債買入れの開始
- 2020年の米国における大規模財政・金融政策
ダリオ氏は、こうした事例に共通する背景を抽出している。
米国において同じ理由で本質的に同様の政府高官の宣言により何度も起こっていた。
その理由とは過剰債務であり、その負担を消すために多くのお金(の発行)が必要とされたのだ。
政府は、有意義な使途も無駄遣いも合わせ、借金を増やす。
ところがそれが増えすぎると、財政再建で返済するのではなく、貨幣増発で対応しようとする。
結果、貨幣価値が低下し、お金や債券等の保有者が損をする。
だからこそ、ダリオ氏にすれば「現金はゴミ」なのであり、少額の金投資を奨めて来たのだろう。