円高が進みにくくなったワケ

日本経済新聞の「大機小機」欄に、円高が進みにくくなった要因を検証するコラムが掲載されていた。
ポイントは対外直接投資だという。


経常収支の黒字が続く中で円安が定着している最大の原因は、直接投資の流出超が大きくなっているためである。

「山河」氏が日経新聞に書いている。
日銀は(いわゆるステルス・テーパリングにより)金融緩和の手をどちらかといえば緩めている。
それなのに、経常収支が黒字を続ける中、円高になりにくい。
これはなぜなのか。
山河氏の主張は、経常黒字と直接投資の流出超額を合計してみるべきというものだ。
この数字が2011-14年までは赤字、2015年以降は黒字化したが、対GDP比率で約1%にすぎないという。

「経常黒字が外貨建ての債券や預金として日本企業や家計に蓄積されている場合には、為替リスクをヘッジするために外貨が売られ、円高になりやすい。」

そもそも、為替ヘッジ付き外貨預金・外債ならば為替レートへの影響は軽微だ。
ヘッジが付いていない場合は、円投外貨転の時点で円安要因となる。
しかし、この場合も期日を迎えたり、為替ヘッジを追加すべき事由が生じた場合は円高要因となる。
これまで日本人、とりわけ邦銀のヘッジなし外債投資は円安要因をもたらしてきた。
仮に今後ヘッジを追加したり、ポジションを閉じたりするような局面となれば、これは円高要因となりうる。

山河氏の主張は、これら金融投資ではなく事業投資の影響を大きく見るものだ。

「日本企業がその外貨で海外企業を買収したり、海外に生産拠点を新設したりする場合は、金融資産ではなく実物資産を外国に持っていることになる。
こうした資産は、いわゆる『構造持高』として為替リスクのヘッジ対象から外す場合が多い。」


こうした構造持高では、円投外貨転の時に円安要因となる。
しかし、それが事業の一部であるがゆえに、ヘッジを追加したり、投資回収したりすることが比較的少ない。
つまり、円高要因を及ぼしにくい。
もちろん、日本企業の子会社が巨額の対価で売却され、代金が円転されるなら、それは円高要因だ。
しかし、幸か不幸かそういう成功体験は日本企業ではあまり聞かれない。

(参考: 円高が進みにくくなったワケ:佐々木融氏

経常黒字だから円高を心配する時代は終わったのかもしれない。
では、新たに、ヘッジなし対外投資のリスクが心配されることはないのだろうか。

長期的にみれば、投資先の国の通貨価値が大幅に下落して回復しない最大の原因は、現地のインフレ率の高さである。
現地政府の国債や預金を持っていれば大きな損失につながる。
これに対し、持っているのが現地の不動産や生産設備の場合は、実物資産の値上がりという形で通貨価値の下落が相殺される。

長期で見れば、為替レートとは物価上昇率の差を埋めるものと解される。
そうしたホライズンで見ると、日本人の対外長期投資が為替損を被るのは、投資先の方が日本より高いインフレにさらされる場合だ。
預金・債券ならば、インフレでやられてしまうことになる。
一方、リスク資産の場合(高インフレでない限り)相対的にインフレに強いと言われている。
だから現地通貨建てキャピタル・ゲインが為替差損をある程度オフセットする。

ただし、これらの議論には隠れた前提がある。
投資先の実質リターン、投資家目線で言うならば実質金利やリスク・プレミアムが十分に期待できる場合に限る。
十分な実質リターンを得られないような投資先にインフレ対応力頼みで投資をしても、まともなリターンが得られないのは自明だろう。


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