国内経済 投資

円が歴史的に割安なわけ:佐々木融氏
2021年7月31日

JPモルガンの佐々木融氏は、円が歴史的な割安水準にある理由を議論している。
いろいろインスピレーションを与えるファクト・仮説が含まれている。


現状のような米国との物価上昇率の差や賃金格差拡大が続くようであれば、ドル/円相場が90円台まで下落したとしても、円は歴史的な割安な水準にとどまる。

佐々木氏がReutersへの寄稿で、円高が長らく放置されているミステリーについて解明を試みている。
共感を覚える問題意識、興味深いファクト、示唆に富んだ解釈が詰まっており、原文を読まれることを奨めたい。
ネタばれになるといけないので、ここでは問題意識・ファクトから面白いものを紹介したい。

ドル円と円の実質実効為替レート
ドル円と円の実質実効為替レート

橙がドル円であり逆目盛になっている。
青が円の実質実効為替レートだ。
(いずれも下方が円安を表している。)
ドルの高低の影響を過度に受けず、円の高低を見定めるには、実質実効為替レートを見ないといけない。

1990年代半ばから実質実効為替レートが下落に転じたように見えるが、ドル円は横ばいだ。
この間20-30年。
日本の凋落の時期と重なっている。
何度か幣サイトでも紹介したとおり、現在の円の実質実効為替レートは相当に低位にある。
(佐々木氏は原因として考えられることを4つ挙げている。)

円が安いと何が起こるか。
佐々木氏は物価と賃金について言及している。

  • 物価: 日本の方が外国よりモノが安くなる。
  • 賃金: 日本の方が外国より賃金が安くなる。

物価については、海外旅行に行く人なら身に染みているだろう。
日本ではほとんどCPIが上昇しないが、他の主要国では約20年で40-50%も上昇している。
外国で安い買物ができる時代は遠い昔だ。
逆に、だからこそ(パンデミックがなければ)インバウンドの観光客が増える。

賃金については、佐々木氏が紹介するファクトが鮮烈だ。

日本の実質平均賃金は過去20年間でみても、30年間でみてもほとんど変化していない。・・・
一方、米国の実質平均年収は過去20年間で25%、過去30年間で48%も上昇している。
その他主要国も過去20年間の実質賃金は15%─45%程度伸びており、日本とは状況が大きく異なっている。

給料は安いが、物価も安いので、なんとか食べていけている。
そんな印象を持つファクトだ。
何でこうした内外価格差がなくならないのか。
本来なら(実体経済での)裁定が働き、内外価格差がなくなるはずではないか。
その1つの仕組みが為替レートであるはずではないか。

正解は原典に譲るとして、1つ感慨を述べるなら、物価と賃金の関係だ。
この2つの間には、鶏が先か卵が先か、の議論に似たところがある。
国内の労働力に海外との間で裁定が働かないのはなぜか。

外国人が来ないからではあるまい。
優れた外国人が来ないのは、日本国内の賃金に魅力がないからと考えるべきであろう。
むしろ、国内の優秀な労働力の側に問題があるのではないか。
優秀な人材が高い報酬を求め外国へ渡るなら、国内企業も賃上げで応じざるをえないはずだ。
そう考えると、1つの仮説が思い浮かぶ。
日本には優秀な人材が多すぎるか、あるいは、海外に渡って高い報酬を得られる人材がそもそもいないか、ではないか。
日本経済の停滞を考えれば、前者ではないだろう。
そうすると、アリソン・シュレーガー氏の「転職しないから経済が滞る」との主張にいっそう説得力が増してくるのだ。

さて、最後に投資家として忘れてはいけないこと。
円安になって外貨建て投資の円貨換算額が大きくなっても、すぐに喜んではいけない。
円安ドル高で持っている米国株の円貨換算額が大きくなったら、それが

  • ドル高によるものなら喜び
  • 円安によるものなら悲しむ

べきだ。
ほとんどの日本の投資家は円も多く持っているのだろうから、基本的に円安とは悲しいものであると考えるべきだろう。


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