元ECB専務理事:低インフレを受け入れろ

ドイツ連銀副総裁、ECB専務理事などを歴任したユルゲン・シュタルク氏が、ECBの物価目標撤廃を主張している。
2012年までの日本での議論を回想させるような言葉が並んでいる。


ECBは将来、過去慣れ親しんだより低いインフレを受け入れなければならない。
そうすれば、市場を歪ませ続けることもなくなる。

シュタルク氏がReutersのインタビューで、ECBに政策変更を迫った。
ECBの非伝統的金融政策が資産価格を上昇させ、金融市場・資産市場に歪みを生じさせた点を問題視したものだ。
資産価格がファンダメンタルズから乖離すれば、それが後に金融不安定化を引き起こしかねない。
金融不安定化を脱するための金融緩和が再び金融不安定化を引き起こすのでは意味がない。

タカ派のドイツ人らしいと言えばそれまでなのだが、話がインフレ目標の是非に及んでいる点が興味深い。
先進国経済の中でも潜在成長率の低い日本で2%物価目標に疑問が持たれるのならいざしらず、これは欧州の話だ。
日本でも2%目標の位置づけを変更しろとの声はあるが、完全に旗を降ろすべきとの議論は少ない。

量的緩和に期待されたほどの効果はないとの議論は欧米でも聞かれるところだ。
日米欧で実証されてしまったのだから当たり前かもしれない。
しかし、2%という物価目標にまで正面から批判が浴びせられているのを見ると、議論は大昔に先祖返りしたように思える。

「低インフレは実際にはユーロ圏における現水準までの経済成長を助けてきた。
家計の可処分所得を引き上げ、減税のように機能した。」


確かに、物価が継続的に低下するデフレは悪影響も大きい。
しかし、低インフレはどうなのか。
悪なのか、善なのか。
その議論が再び提起されているのだ。

日本がデフレに陥った時、アジアとの経済融合・機械化による生産効率向上などが一因として挙げられた。
この流れは逆戻りできないだろう。
シュタルク氏は、構造的な変化にともないインフレが低下している今、2%への収束にこだわるべきでないという。
無理にしようとすれば、煩雑な市場介入が必要になるが、それでも目的は達せられないだろうという。
「低インフレを受け入れさえすれば、市場経済を害することはなくなる」とシンプルな解決策を呈示している。

FRB・ECBは2%物価目標が実現しないうちに金融政策正常化に動いている。
その意味で、シュタルク氏の提言は(日銀を除いて)すでに実現していると言える。
しかし、仮に中央銀行が正面から低インフレを受け入れる場合、話はそう単純ではない。
低成長下で低インフレを容認してしまうと、中央銀行は実質金利を引き下げる余地を失ってしまう。
例えばゼロ成長下で物価上昇率が1%なら、名目金利をゼロ%にしても実質金利は-1%にしかならない。
ゼロ成長下で―1%の実質金利は十分に景気刺激的だろうか。
(状況によるとしか言えないだろう。)

低インフレを許容することは(現状では)金融政策にあまり期待できなくなることを意味する。
見かけ上財政負担のない金融政策を失うことは、政府にとっては痛手だろう。
特に、財政スペースのない国にとってはそうだ。
そう考えると、シュタルク氏の提案も、違う星の国の話のように聞こえてくる。

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