アリアンツ首席経済アドバイザー モハメド・エラリアン氏が、めずらしくPIMCOでのビル・グロス氏との思い出に触れている。
PIMCOでのキャリアの初期、創業者にして伝説的投資家ビル・グロスが、ポートフォリオ・マネージャーたちに言っていたのを憶えている。
『何もしないのが最善である時もあるんだ。』
・・・グロスのアドバイスを無視すれば、不必要なビッド・オファー・スプレッドを払ったり、ポートフォリオがかえって最適でなくなったりといったツケを払うことになる。
エラリアン氏がBloombergへの寄稿で、珍しくかつての債券王ビル・グロス氏の記憶を語っている。
グロス氏はPIMCOを創業し世界最大の債券ファンドに育て上げた伝説の債券投資家。
同氏はPIMCOを独アリアンツに売却し、CIOとして投資を続けた。
エラリアン氏はCEO兼CIOとしてグロス氏とともにPIMCOの黄金期を作り上げた。
エラリアン氏がPIMCOを退社しアリアンツ籍になると、グロス氏は社内で孤立し、PIMCOを去ることとなる。
グロス氏はジャナスに移籍し再起を図ったが、実らず、昨年一線を引退した。
エラリアン氏はグロス氏の話を避ける傾向があったように見えたが、このコラムではさらりと思い出を書いている。
ただし、今回は投資家に対して「何もしないのが最善である時もある」と言いたいのではない。
言いたい相手はFRBである。
FRBは、マイナス金利、イールドカーブ・コントロール、資産買入れ拡大、より積極的なフォワード・ガイダンスを含む政策強化を行うよう市場からプレッシャーを受けている。
これらすべては、市場の狭い視野でいえば、投資家のお金を株式やハイイールド債などリスク資産に投じる手助けとなり、それによりすでに高い価格をさらに高く持ち上げる。
しかし、そうすることの正当な経済政策の根拠は、あったとしてもほんのわずかだ。
エラリアン氏は、FRBに動きすぎるなと言っているのだ。
極めて興味深いのは、ここで例示された4つの強化策は、いずれも日銀が過去7年続けてきたことである点だ。
本当にFRBが動かない方がいいのなら、もっと昔に日銀にも言ってほしかったといいたくなるような話だ。
エラリアン氏は、なぜ動きすぎてはいけないと考えるのか。
同氏は、非伝統的金融政策を擁護する時に用いられる4つの論点を挙げ、足元の状況に当てはまるかどうかを検証している。
- 市場機能: すでに回復ずみ。
- 市場ボラティリティ: 金利について沈静化ずみ。
- クレジット・フロー: 社債発行市場は回復。
- 経済活動: 阻害要因は金融環境ではない。
エラリアン氏は、今求められることがあるならば、ほとんどはFRBの職責の範疇ではなく、大統領府や議会の範疇にあると言いたいのだ。
同氏は、求められる政策として、対象を絞った救済、家計のセーフティネット、生産性・成長の向上策を挙げている。
では、FRBが市場の求めのまま動きすぎてしまった場合何が起こるのか。
(これは、今の日本の現状を映す面があるのかもしれない。)
- 資本の最適配分機能の阻害: 「ゾンビ市場」
「これが生産性を損ね、潜在成長率を低め、金融不安定のリスクを高める。」 - 信認と中立性が揺らぐ: 「富の格差拡大に寄与」
- 出口がなくなる:
「過去数年の経験でわかるのは、市場がFRBの譲歩を引き出した時はいつも、たとえ譲歩が期待を超えていた場合でも、市場はさらにFRBに要求するということだ。」
エラリアン氏の主張は、動きすぎるな、である。
市場の方は、FRBがさらに市場にとって(短期的に)都合が良いように動くと織り込んでいる。
実際には、どちらに転ぶだろうか。
FRBは今さら、市場の織り込みを裏切り資産価格の下落を引き起こしてでもブレーキを踏む覚悟があるだろうか。