マネックスグループの松本大氏が、数十年にわたる無借金を中断し、借金まで用いて投資に取り組んでいるという。
新入社員のころを除けば私はこれまで『無借金人生』でしたが、今回は人生で初めてお金を借りてまで投資しています
松本氏がアエラで、株式や不動産に対して強気の見通しを述べた。
根拠として「超大型量的緩和」がリスク資産を押し上げるとの見方を挙げている。
一方、その直後に世の中の現実について述べた発言が紹介されている。
株価がスルスルと上がる一方で、高級品が値下がりする。
こうした現象の背景を探るのはとても興味深いことです。
この対比は、2つの要素に分解できるのではないか。
- お金の行き先: 実需か投機か?
- 時間的変化: デフレのちインフレ?
お金の行き先
世の中には大きく分けて2つのお金のプレイグラウンドがある。
実体経済と金融経済だ。
実体経済は往々にして変化に時間がかかる。
だから、システムに大量の資金が一気に供給されると、実体経済はそれを消化しきれない。
社会がウィルスに怯える場合はなおさらだ。
結果、お金は金融経済に向かう。
こちらは実体経済の実需とは無縁だから、お金は縦横無尽に回転する。
つまり、実体経済ではお金の流通速度が上がらず、金融経済では流通速度が上がりやすい。
いや、仮に金融経済の流通速度が上がらなくとも、そこにお金が流れるならやはり資産価格は上昇する。
これが意味するのは、CPIで見たインフレは上昇しなくても、資産インフレはどんどん進みうるということだ。
これは、私たちがこの10年ほど目の当たりにしてきたことでもある。
時間的変化
消費者物価・企業物価の観点でいって足元がデフレ的環境にあることに反対する人はおるまい。
そして、デフレとはお金の価値が(相対的に)上昇することを意味する。
よってデフレ環境では借金は不利で、国債等に投資するのが有利とするのが定石だ。
デフレで借金が増価するのは怖いし、デフレならリスク資産も減価するとの連想が働くからだ。
しかし、今そうなっていない。
それどころか、松本氏は借金してまで投資をしている。
これは、時間軸によってデフレ/ディスインフレ/インフレの状況が変化するとの見通しが前提にあるのだろう。
それは少なくとも米国においてはコンセンサスとなっている。
コロナ・ショックでバラまかれたお金が、脅威が減少するにしたがって実体経済でも流通し始める。
これが最後には実体経済を押し上げ、インフレを押し上げる。
その国ごとにインフレの進み具合に差はあろうが、定性的にはある意味当たり前の話だ。
インフレが行きすぎる経済では、どこかで中央銀行がブレーキを踏むという可能性もあろう。
一方、インフレが上がりにくい経済では、中央銀行はなかなかブレーキを踏めない。
今の世界では、政府、特に先進国の政府はとにかくアクセルを踏み続けたいと考えている。
これは、高い資産価格に安心感をもたらしている一因だ。
温度差に着目した投資戦略
投資の世界の常道は(もしもその投資家が神様なら)
- 上がるものをロングするか
- 下がるものをショートするか
- その両方
となる。
仮に本当にお金の価値が下がり、株式・不動産が上がるなら、お金を借りて株式・不動産を買えばよい。
松本氏はそれ(上記の3つ目)をやっているのだ。
ただ、すべての投資家にとってこうした理詰めの投資戦略が最適というわけではない。
両方やるのは、レバレッジをかけるということ。
一般の投資家には必ずしも奨められない。
一般の投資家は、上記の1つ目または2つ目のうち、いずれかより有望と感じられるものに取り組めばよいのではないか。
その場合の2つ目の選択肢とは、より価値を保てると予想される通貨に対し自国通貨をショートすることになる。
皮肉にも、円はディスインフレの染みついた国の通貨だけに、価値を保つという意味ではかなり良好な実績を持っている。