佐々木融氏:効果のない政策はやめるべき

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JP Morganの佐々木融氏がReutersへの寄稿で「量的質的緩和でインフレにならない訳」を説明している。
バランスのよい完結した解説なのだが、ここではバズ・ワードを散りばめて量的緩和とは何であったかを回顧してみたい。


結果を出せなかった3つの経路

佐々木氏はコラムの中で、「通貨価値を下落(インフレ率を上昇)させる」3つの経路を挙げている:

  1. マネタリー・ベースを増やすことで金利を引き下げ、企業・家計の投資・消費を促す。
  2. マネー・ストック(市中に流通している通貨量)を増やすことで、円の価値を下げる。
  3. 期待インフレ率を押し上げ、企業・家計の投資・消費を促す。
その上で「日本では今のところ、この3つとも機能していない」と指摘、その原因を種明かしする。

  1. 日本では特に、量的緩和を開始した時点ですでに金利は相当に低かった。
    結果、マネタリー・ベースを増やしても、それほど大幅に金利が低下したわけではなく、経済への波及も小さかった。
    つまり、流動性の罠に陥っていた。
    量的緩和は(マイナス金利政策とは異なり)ゼロ金利制約を取り払ってくれるものではなかった。
  2. マネーストックは大きくは増えなかった。
    結局のところ、マネタリー・ベースを増やせばマネー・ストックが増えるというような単純な関係にはなかった。
  3. 上の2つは理屈どおりの話だ。
    この理屈どおりの現象を打ち破るためには日銀・政府が放漫政策を続ける必要がある。
    1998年のポール・クルーグマン教授による無責任になる約束であり、昨年のクリストファー・シムズ教授による財政再建ではなくインフレによる債務圧縮がそれだが、今のところ日銀・政府にそうしたメッセージを発する様子はない。

クルーグマン教授が語ったように1と2は理屈どおり、予想どおりにうまく行かなかったことになる。


無責任な約束は有効だが・・・

3には理論的な可能性があるが、この手法には大きな副作用があることは明らかだ。
佐々木氏はこう説明する。

「この方法は恐らく微調整が効かず、通貨価値の下落(インフレ率の上昇、為替市場での円安)は一気に大幅な形で訪れると考えられる。
ちなみに、この時、当然ながら日本人が後生大事に貯め込んでいる現金・預金の価値も大きく下落することになるため、人々の生活は大混乱に陥りかねない。」

この副作用の懸念から、実行すれば政治問題化は必至だ。
政府・日銀がこの選択肢を選択しなかったことを喜ぶべきだろう。
インフレ誘導はあくまで社会の幸福のために選択されるべきであり、インフレのためのインフレは必要ないからだ。

(次ページ: 約束していない約束が果たされる)

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