佐々木融氏が語らない追加緩和で円高のワケ

JPモルガンの佐々木融氏が、ニューヨークでの投資家訪問の様子を紹介している。
それもとても興味深いのだが、それ以上に、ある一節が興味を引いた。


JPモルガンは日銀の次の一手について、景気後退リスクが高まった際にイールドカーブを引き下げると予想している。
年内は可能性が低いものの、短期金利をより大きく下げ、カーブがスティープ化するよう調整するとみている。
同時に、こうした追加緩和策は円相場に逆効果、つまり円安ではなく円高に作用してしまうと考えている。

佐々木氏がReutersへの寄稿で書いている。
日銀の2%物価目標は達成のめどが見えない。
それが重要な目標ならばさらに努力すべきなのは言うまでもない。
つまり、追加緩和を講じるべきとなる。
それでも日銀が追加緩和に慎重なのは、現状の金融緩和政策に副作用が存在すると考えているからだ。
かつて黒田総裁はリバーサル・レートという言葉を引いて、その可能性を説明した。
実際、金融機関からは悲鳴にも似た批判が続いている。
日銀にやれることは多くない。

日銀は2016年の「総括的な検証」において、政策における「量」の優先順位を後退させている。
追加緩和をやるなら主役は「金利」か「質」だろう。
「金利」でやれることはもちろんイールド・カーブの引き下げだ。
しかし、これは副作用をさらに悪化させる。
せめてもの配慮として、カーブをスティープ化させようと考えるのは自然なことだ。
JPモルガンの追加緩和に対する想定は極めて理に適っている。
問題は最後の一文だ。

こうした追加緩和策は円相場に逆効果、つまり円安ではなく円高に作用してしまうと考えている。

残念なことに佐々木氏はこの根拠を明かしていない。
小出しにするつもりだろうか。
コラムを読んだ人の多くが、間違いなくここに強い興味を抱くのではないか。
そこで、以降、JPモルガンの真意を勘ぐってみたい。
これには大きく3つの可能性が考えられる。


1つ目は《Buy the rumor, sell the fact.》というもの。
今後、景気が鈍化・後退すれば、当然市場は追加緩和を予想するようになる。
実際のところ、最近の円の長期金利の低下を見ると、すでに織り込んでいるのかもしれない。
この織り込みが実現し、材料出尽くしとなって円が買われる可能性だ。
先述のとおり日銀に残された政策余地は多くない。
主要中央銀行の中で最も大規模な金融緩和を行っている。
おまけに、財政政策の余地も大きいとは言い難い。
他国より大きな金融・財政政策を講じるのは難しい。
金融緩和が出尽くしたと考えれば、市場が円買いで応じる可能性は十分に考えられる。

2つ目は世界経済との関係だ。
日本の経済・市場が世界経済の動きに極めて敏感であることを考えると、日銀の追加緩和が発動される時、世界経済がいい状態にない可能性が高い。
市場がリスク・オフとなれば、超低金利で調達通貨となっている円が買い戻される。
つまり、円高となりやすい。
これは追加緩和により円高となったわけではなく、追加緩和でも円高を食い止められないという話だ。

最後は期待インフレ率の低下だ。
これは、前2点と重複するのだが、マイナス金利の深掘りの公表が期待インフレを押し下げる可能性が否定できない。
2016年1月末のマイナス金利導入時を回顧するとよい。
この時もドル円相場は円高ドル安に振れた。

8年もの実質(青)・名目(赤)金利とブレークイーブン・インフレ率(緑)
8年もの実質(青)・名目(赤)金利とブレークイーブン・インフレ率(緑)

BEI(緑)が債券市場(ここでは8年もの)に織り込まれているインフレ期待である。
これが下がって来ると、市場は日銀に追加緩和をおねだりするようになる。
前回がマイナス金利導入の2016年1月まで。
今回がまさに今だ。

問題なのは、前回BEIが底を打ったのが2016年1月でなく2月であったということ。
マイナス金利導入が発表されてから1か月後、BEIは低下しマイナス圏に落ち込んだのだ。
逆に実質金利はいったん上昇したから、円高に振れるのも理屈どおりだった。

そこからのBEIの回復はのろかった。
2014年のピークは1.8%だが、マイナス金利導入後のピークは2016年12月の0.7%。
イールド・カーブ・コントロール導入後に迎えたピークだが、とても低いピークだ。
刀折れ矢尽きた日銀にやれることは何か。
市場は見透かしているのだろう。


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