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住宅投資にあまり期待するな:ロバート・シラー
2021年10月26日

ロバート・シラー教授が、米住宅市場について慎重なスタンスを継続し、投資としての住宅の現実を解説している。


「『あなたは教育を受けた人間として、不動産の所有を助け促進すべきだ。』と彼は書いていた。」

シラー教授がProject Syndicateで、最近受け取った手紙について紹介していた。
送り主はベトナム戦争で空軍パイロットを務め、その後に証券会社・銀行で勤務し、最近引退した人なのだという。

このお叱りの原因は明らかだ。
最近シラー教授が、米住宅ブームは終わった可能性が高いと発言したことに怒ったものだ。
送り主はさぞかし驚いたのだろう。

ケース・シラー米住宅価格指数
ケース・シラー米住宅価格指数

実際、このニュースは少し唐突に到来し、かつ、的中するなら米経済・市場にとって極めて深刻なものだった。
ケース・シラー住宅価格指数は7月までむしろ急上昇している。
シラー教授は、フラットな先物価格から、これまでのような上げが続くとは考えるべきでないとブレーキを踏んだようだ。

それにしても、この手紙の「教育を受けた人間として」「べきだ」という言葉遣いが微笑ましい。
資産価格の実証研究でノーベル賞を受けた相手によくもこう書けたものだ。
こうした精神論はこの送り主だけのものではない。
不動産バブル下の日本でもそうだったし、証券界では今もしぶとく生き残っている。
手紙の送り主の不動産信仰はこうだ:

「『この国では、すべての先進国と同様、不動産は貨幣価値で測った富の根源となっている。』」

送り主は計5回、家を買い、それぞれ値上がりし、富を築いて来たらしい。
住宅保有が富を増やす方程式になっていたわけだ。
シラー教授は、50年で15.8倍の価格になった最初の家について、淡々と残酷にファクトを付け加える。

50年の間に米消費者物価指数は6.7倍になったので、家の価値は実質で2倍強になったにすぎない。
この50年での複利年あたり実質価格リターンはわずか1.7%だ。

15.8倍といえば大儲けのように聞こえるが、そうともいえない。
インフレの怖さを示す良い(悪い?)例ではないか。
この計算は錯覚を起こしやすいので、中学校の数学レベルで確認しておこう。
当初価値が1ドルだった不動産が50年後に15.8ドルになったとしよう。
一方、消費者物価は1が6.7になった。
これは実質では、15.8÷6.7=2.35倍。
2.35の50乗根は1.7%。
当たり前だが、ノーベル賞学者の計算は正しい。

もちろん年1.7%のキャピタル・ゲインの他にも住んだり貸したりすることのキャッシュフローはある。
ただ、そうしたインカム・ゲイン的なメリットがあるとしても、キャピタル・ゲインが年1.7%だとしたら、人々の捉え方はだいぶ違ったものになるのではないか。
特にこの10年でいえば、キャピタル・ゲインを求める不動産投資家が増えているはずだ。

シラー教授は淡々と残酷に、おそらく格下の相手からの手紙の主張を退けている。
その一方で、持家に関連するテーマについては慎重に発言すべきとも自省している。
家を持つことで、コミュニティの一員となること、家計に規律が生まれること等、住宅購入にはメリットがあると述べている。
しかし、そのメリットだけで価格を無視すべきかは別の話なのだ。

ブームになっている場所の住宅に投資するのは、多くの人が考えているようには安全な長期的賭けではないかもしれない。
・・・今買いたいと考えている人は、住宅価格がむしろ山あり谷ありで期待外れの長期的道のりになりうることを許容できるか確認しないといけない。

資産価格が上昇している時、シラー教授が慎重なコメントをするのは珍しいことではない。
それでも、住宅価格の変調は気になるところだ。
住宅市場は米経済における資産効果の最たる部分の1つであり、家計の心理を大きく左右する。
また、左派が住宅価格上昇を望んでいないのも事実だ。
8月のケース・シラー住宅価格指数は日本時間の今晩に発表される。


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