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今年のインフレは20%に!?:ピーター・シフ

ユーロ・パシフィック・キャピタルのピーター・シフ氏が、リフレ政策の持つインフレ税としての性格を批判している。
重要な指摘とともに誇張も多いので、適否に気を付けながら聴いてみよう。


(インフレを)心配すべきだ。
・・・これは税金、インフレ税だ。

シフ氏がFOX Businessで、インフレ要因を生み出し、インフレ上昇を許容する米政府・FRBの政策を批判した。

インフレとは(一面)通貨の価値が減価することを意味する。
結果、借金をする者が得をし、貯蓄をするものが損をする。
最大の借主が国なら、インフレには隠れた税収という意味合いがある。
だから、債券・預金の利回りよりインフレを高めるような政策については、金融抑圧・インフレ税などとの批判がある。

安倍前首相がよく用いた言葉に「税こそ民主主義」がある。
税制を変えるには民意、つまり立法府の承認、大きく変えるには選挙が必要という趣旨だった。
しかし、インフレ税は明示的な民主的意思決定のプロセスを必要としない。
(非常に間接的に選ばれた中央銀行の高官たちだけでも決められる。)
それだけにインフレ税を嫌う人は多い。

年初4か月の家計費がどれだけ上昇したかCPIで測ると2%だ。
3倍して年率を求めると6%になる。
しかし、月次の数字を見ると、年初4か月は毎月加速しているから、2021年のCPIは20%上昇になる。

もちろん、今年の米CPI上昇率が20%になる可能性はほとんどないだろう。
年初4か月のインフレ上昇にはベース効果が効いているからだ。
シフ氏は頭のいい人物だが、イデオロギーが絡んでいるとこういう詭弁を弄するようになる。
聴き手は焦らず、見極める必要がある。

外国人は米国債を買っておらず、売っている。
これらの点をつなげる知恵のある人なら、米国債を売るはずだ。
問題は、売るべき米国債が多くありすぎることだ。

これは正しい。
外国人投資家は近年ネットで米国債を売っている。
拡張的な金融・財政政策が続き、米国債やドルが暴落まではいかなくても、ある程度の金利上昇(=価格下落)やドル安は起こるかもしれない。
米国債の魅力はかつてほど高くない。
結果、唯一買うクジラはFRBしかない状況になっている。
これが金利やドル相場をいつまでも支えられるか、多くの人が迷っている。
大きく崩れることはないと思いつつも、これまでよりは悪化すると疑っている。

みんな財の不足のことを話しているが、本当の問題は過剰な貨幣にある。
莫大な貨幣を増発すれば必ず財が不足する。
FRBはいくらでもお金を印刷できるが、そのお金で買う財を印刷することはできない。

これは正しい指摘だ。
ただし、過剰な貨幣が問題であるとの認識が正しいとしても、財の不足も足下では大きな問題だ。
財の不足は時間とともに収束するだろう。
ペントアップ需要が消化され、供給能力も補強されるだろうからだ。

ジョー・バイデンがは言う:
『心配しなくていい。
年400千ドル超稼ぐ人だけ、経済政策の財源を作るために増税になる。』
彼は嘘をついている。
すべてのアメリカ人がインフレ税を支払い、中間層・貧困層が最も打撃を受ける。

これも半分正しい。
トランプ政権以降の大規模財政政策やFRBの金融緩和がインフレ要因であるのは間違いない。
インフレがあまねく家計・企業の負担になるのも間違いない。
ただし、どの層に一番大きな打撃を及ぼすかは定かではない。

CAPMの考え方で投資の期待リターンを考えると、インフレはリスクフリー金利の時点で効いてしまう。
つまり、リスクフリー資産(米国債・現預金)だろうがリスク資産だろうがインフレ税は課されることになる。
金持ちは何とかインフレ税を逃れようとするが(同じ通貨の世界に留まる限り)インフレ税は逃れられない。
できるのは、単にリスクプレミアムによってインフレ税の痛みをごまかすことだ。
だから、一たびインフレが上昇してしまうと、金持ちほど多くのインフレ税を負担することになる。
(インフレの上昇過程ではリスク資産に恩恵がありうるが、これも実はリスクを取った対価にすぎない。)

「中間層・貧困層が最も打撃を受ける」というのは、額においては正しくない。
ただし、経済的・心理的に受ける痛みでいうなら正しいのだろう。

シフ氏の主張は「FRBのいわゆる天才たち」に及ぶ。
最近この頃を引く識者が多くなったように感じられる。

ベン・バーナンキは当初言っていた。
『サブプライムは心配いらない。
食い止めた。』
今FRBは言っている。
『インフレは心配要らない。
一過性にすぎない。』
サブプライム市場が食い止められていたように、今インフレも一過性なんだ。

FRBに対する不信感が募っている。
同じことを繰り返しているのではないか。
目先を取り繕うために金融緩和を続け、バブルを生み出し、金融緩和をエスカレートさせる。
政策を担う人の顔はたいして変わらないから、やり方も踏襲されている。
世界中で似た顔が似た政策を続けている。
だから、こうした感傷的な批判が語られるようになる。

このインフレ危機は単に金融危機より悪いものであるだけでなく、パンデミックより悪いものになりつつある。
政府の治療法は、病気を退治するのではなく、経済を殺してしまうものだからだ。

経済や市場に積極的に介入しようという考えに対し、シフ氏はリバタリアン的な考えの持ち主だ。
経済や市場は神の見えざる手に任せるべきと考えているのだろう。
ただ、多くの人はそれで問題が解決するとは考えていないはずだ。


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