海外経済

今回だけでは終わらない:ローレンス・サマーズ
2021年12月19日

ローレンス・サマーズ元財務長官は、FRBが遅ればせながらインフレへの危機感を示したことを歓迎しつつ、もっと大きな金融引き締めが必要になると予想している。


水曜日のFOMC声明とジェローム・パウエルの記者会見で表明された、方向転換の必要性の認識は必要なものだったが、うまく物価を安定させ成長を支えるために十分なものではなかった。

サマーズ氏がワシントン・ポストへの寄稿で、14-15日のFOMCの結果についてコメントした。

政権が変わった頃から、この民主党の重鎮はインフレ・リスクを唱え続けてきた。
民間には同調する人もいたが、民主党の周辺ではまさに孤軍奮闘だった。
ついには共和党や保守層からエールを贈られる始末だった。
しかし、結果はサマーズ氏の指摘は概ね当たってきた。

サマーズ氏は、FRBがタカ派寄りにシフトしたことを歓迎・評価する一方、まだ不十分と注文を付ける。
1つには、インフレを制御することが本来的に難しいため。
もう1つは、FRBがまだ状況を誤認している可能性だ。

インフレが景気後退なしにうまく安定化された例は、あっても極めて少ない。
朝鮮戦争からポール・ボルカーによる1979年以降のインフレ退治の間、すべての米景気拡大は、FRBがインフレにブレーキを踏み、経済が景気後退に陥ることで終わっている。

最近老人たちが口を揃えて話す経験則だ。
FRBがやむにやまれぬ理由(インフレ)でブレーキを踏むと、経済が停滞に陥る。
インフレ制御は本当に難しい。
仮に純粋に妥当な道を示す人がいたとしても、その時々で政治などの要因が加わり、景気後退への道が途切れることはなかった。

近年、政策によって経済を操作しようという考えが強まり、金融緩和が好まれ、サイクルが長期化していると言われる。
それだけに、多くの人がサイクルを忘れている、あるいは経験していない。
前回のサイクルの底が2008年とすれば、すでに13年が経った。
大卒で金融界に入った人は今すでに35歳以上。
脂の乗り切った30台半ばのプロがまだサイクルを一周経験していない可能性がある。
そう考えると、経済・市場への見方について世代間の断裂があってもおかしくない。
おまけに、今世紀に入ってから、インフレを善とする論調の中に私たちは置かれている。

FRBはとにかくタカ派寄りにシフトした。
しかし、サマーズ氏は、FRBがまだインフレを一過性と見ている節があるという。

「FRBは持続可能な失業率を4%と見ているのに、FRBの予想では3.5%の失業率でもインフレが大きく抑制されるとしている。」

サマーズ氏はインフレがしばらく高止まりすると見ている。
逼迫する労働市場の他、家賃・住宅価格上昇が今後CPIに反映されていくと予想するためだ。
一方で、一過性の根拠となった供給側のボトルネックについては「誇張されている」と書いている。
仮に供給制約という主張が誇張ならば、問題の本質は反対側に移ることになる。

これは、物価の安定を回復するために政策によって需要を抑制する必要があることを示唆している。
どれほどの引き締めが必要なのかは誰もわからない。・・・
でも、現在の高インフレと低失業率の経済において、インフレがFRBの目標より低く失業率が8%程度だった昨年に比べ、金融政策がはるかに緩和的であるのは確かだ。

急激な需要増大を引き起こした刺激策を和らげ、需要側からインフレに対処するべきとの指摘だ。
もっとも、金融政策が短期的に供給側を改善できることは少ないから、需要側に働きかけるのは(そうする必要があるなら)当然の選択肢だ。

どれほどの引き締めが必要なのかはわからないとしつつ、サマーズ氏は、金融政策の効果にラグがともなうことを踏まえ、現状の路線では不十分と明言する。

「経済を抑制するのはもちろん、金融政策正常化には、FRBが来年について予想する0.25% 3回の利上げよりはるかに大幅な利上げが必要になる。・・・
来年もしも金融政策を中立に戻せなければ、さらに2年間極めてインフレ的な金融政策が続くことになる。」

今月公表されたドットプロットからは、FRBの考える名目の中立金利は2.5%前後であると読み取れる。
つまり、仮に来年インフレ率が2%物価目標まで低下したとしても、金融政策を中立に戻すには2.5%まで利上げが必要ということになる。
(もしもできなければ、2022年の1年間+ラグ≒2年 インフレ的な金融政策が続く。)
金融引き締めとは市中の金利を中立金利より高くすることで経済過熱やインフレを抑え込む営みだ。
FRBの金融政策はまだまだ極めて拡張的なのが現実だ。

FRBはインフレが一過性でないことを認めたのに、まだ引き締めスタンスが不十分とサマーズ氏は指摘する。
理由として考えられるのは2つ:
状況を誤認しているか、「経済的ショック」の震源地になりたくないかだという。
サマーズ氏は、この中途半端な状況を個々人が認識すべきと促している。

私たちは、今起きていることが、必要に応じより急激な方向転換が起こりうるプロセスの始まりにすぎないことを期待すべきだろう。
どうなるかは時間の経過が教えてくれるはずだ。

サマーズ氏が外れることを祈りたいが、これまでのところ同氏は当ててきている。


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