海外経済

中央銀行が通貨の価値を貶める:レイ・ダリオ
2019年12月10日

ブリッジウォーター・アソシエイト レイ・ダリオ氏が、法定通貨と暗号資産・デジタル通貨の未来について論点整理している。


お金の目的は2つある:決済手段と富の保蔵だ。・・・
もしも私がお金を払ったら、それで何が買えるか、その理解の問題なんだ。
つまり、これは認識の問題なんだ。

MITでAIを研究するロシア人からのインタビューで「お金とは何か」と尋ねられ、ダリオ氏が丁寧に答えている。
一般にはもう1つ《価値の尺度》を加えることもあるが、ダリオ氏は先述の2つを重視しているようだ。
ダリオ氏は、現在の不換通貨についてその問題点を指摘する。

中央銀行が(不換紙幣発行で通貨という債務を)負った時、そうした傾向が強まっているが・・・中央銀行はお金を刷り、お金の価値を貶めることができる。
今日から離れ、歴史を見る限り、すべての通貨は通貨のままか、あるいは長い間で減価するかだ。

通貨には盛衰があり、それに金融政策が大きくかかわっていると示唆したものだ。
中央銀行が通貨の価値を貶める場合とは、おそらく財政の持続可能性が揺らぎ、通貨発行がそれを補っている時なのだろう。

ビットコインなど暗号資産が法定通貨にとって代わる可能性を尋ねられると、ダリオ氏は否定的な見解を述べた。
現状、暗号資産が決済手段として普及しているわけでなく、ボラティリティが高いために貯蓄にも向かないためだ。
とはいえ、ダリオ氏は頭から民間の通貨発行を否定しているわけではない。
同氏はFacebookのリブラについて少し違った見方をしている。

「(ビットコイン等は)Facebookが提唱するステーブル・コインとは大きく異なる。
ステーブル・コインは決済手段・富の保蔵の両方にとって有効となりうる。
保有すれば、多くのものの裏付けがあるからだ。」

Facebookの提唱するリブラはIMFのSDRのように主要通貨のバスケット(人民元は村八分になっている)を裏付けとすることが想定されている。
ダリオ氏はこの点を評価しているようだ。
同氏は「暗号通貨」という言葉を使わず「デジタル通貨」という言葉を用い、その可能性を認めている。
リブラ等いくつかのデジタル通貨は決済手段・富の保蔵の役割を果たせるがゆえに成功する可能性があるという。
その一方で、いくつか高いハードルも残されていると指摘した。
・政府の許可
・通貨としての信認

前者についてダリオ氏は本音を短く吐露している。

中央銀行が統制しないより良い形のお金を実現する可能性はあると信じている。

創成期のビットコインなどでは、国家権力から解き放たれた通貨などというユートピア思想が語られることもあった。
暗号資産がほぼ純粋に投機の対象となってから、こうしたことをいう人はほぼ絶滅している。
しかし、創世期にはそれなりに魅力あるフレーズだったのだ。
躊躇なく大規模な貨幣増発を続ける中央銀行に対して危機感を持つ人がいたことは想像に難くない。

伝統的市場に携わる人たちの中にも、こうした思いを理解する人は少なくない。
足元の現実を見直すだけでも、それは容易に理解できる。
なぜ日銀は45%も民間から出資を受けているのか。
なぜFRBに米政府は出資していないのか。
通貨が廃れた歴史が、こういう出資比率に表れているのだろうし、それは中央銀行の独立性を重視するコンセンサスとも合致している。
一方で、資本構成にかかわらず、現在の中央銀行が政府の一部として機能しているのも事実だ。

ダリオ氏は、民間のデジタル通貨が通貨として機能する可能性は相当に低いと述べている。
その理由は、通貨としての信認を得るには長い時間が必要だからだ。

(デジタル通貨が)金と同様に有効な手段となるまで、とても長い時間かかるだろう。
そうならないかもしれない。
金は各国で数千年の実績があり、持ち運びでき、置いておくこともできる。
デジタル通貨に比べて欠点もあるが、米国がドルを増刷するのではないかと心配する各国中央銀行が保有している。

ロバート・シラー教授は以前、金について数千年続くバブルと表現したことがある。
金に何か十分に価値の裏付けになるものがあるわけではないが、みんなが価値があると思いそれが定着したがために価値が存在しているとの指摘だ。
ダリオ氏のいう「理解」や「認識」の問題なのだ。
こうしたところを見ても、新たなデジタル通貨が通貨たりえるためには、兌換通貨となるか、みんなが信じ込むまで数千年待つしかなさそうだ。

ダリオ氏は通貨には盛衰がつきものと話した。
また、その増刷が大きな要因であると暗示した。
つまり、ドル等の凋落の可能性を念頭に置いているのだろう。
このため以前から金をポートフォリオに加えるよう投資家に奨めている。

ダリオ氏が金投資を奨めた時、騒いだのはゴールド・バグたちだけではないかった。
暗号資産関連のメディアが大喜びしたのだ。
そこでの論調は
《ダリオ氏が不換通貨を減らし金に投資するよう言っている。
きっとデジタル・ゴールドと呼ばれる暗号資産にも追い風だろう。》
というものだった。
微笑ましくもあり、哀れでもある一節だった。
ダリオ氏はかなり前から暗号資産に明確なダメ出しをしていたからだ。


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