世界が日本化するナラティブ:ロバート・シラー

ロバート・シラー教授が、足元の米経済・市場心理について悪い状況ではないと話している。
その一方で、ボラティリティ上昇などのきっかけで恐ろしいナラティブが人々の脳裏に蘇れば、次の景気後退が予想以上に過酷なものになる可能性も残っているのだという。


「私は、世界が複数のナラティブで動かされているという考え方をしている。
・・・
史上最低に近い、あるいはマイナスの債券利回りは何か他の投資対象での恐怖に関係している。
また、趨勢的停滞のナラティブや景気後退のナラティブにも関係しているはずだ。」

シラー教授がBloombergで、市場の複雑な心理を解説した。
教授は常に経済や市場の気まぐれさを受け入れる。
市場やデータには矛盾があっても驚くには値しないと考えている。
市場が単一のナラティブできれいに説明できるほど、この世界は単純ではない。

「(流行っているのは)趨勢的停滞ナラティブと世界が日本化するナラティブで、表面的にはありうる話だ。
現在の低金利のレジームが2019年になっても続いているとは、ほとんど誰も予想しなかった。」

ボラティリティが再上昇したら何が起こりうるかと尋ねられると、シラー教授はリーマン危機を回想しだした。
2008年ボラティリティが急騰した時、恐怖を掻き立てるナラティブが人々の心に蘇ったのだという。

「あれは、世界恐慌ナラティブの再来だった。
2008年9月リーマン・ブラザースが倒産しワシントン・ミューチュアルが身売りし、みんなの関心は『1929年の再来か?』となった。」

教授は、現在はそうしたことが迫っているという様子はないという。
大騒ぎしつつも株式は史上最高値圏にあり、投資家が心配しているようには見えない。
教授自身も、次の景気後退が史上最悪の景気後退だった2008年のようにひどいものになるとは予想していない。
ただし、ファンダメンタルズがそれほど悪くなくとも、心理的な要因で悪化する可能性は残っている。

「何か恐ろしいナラティブが新たな力を持ってそうするのかもしれない。
大恐慌ナラティブとか、あるいは2008年のナラティブが再来するのかもしれない。」


米経済は鈍化しつつあるとはいえ、まだ成長している。
市場心理も決して悪くない。
しかし、それが投資家の油断を誘う可能性もあると、シラー教授は警戒を緩めない。

また、投資スタイルの変化もリスクを大きくするかもしれない。

「パッシブ投資はバブルを大きくする可能性がある。
一方で、米市場には多くのアクティブ投資家がおり、特に警戒すべきかどうかはわからない。
注目が個別株からインデックスにシフトしたのは事実だ。
スマート・ベータETFは、それを正そうという試みだ。」

ETFは果たしてリーマン危機の時の証券化商品のようなドミノ倒しを引き起こすのか。
予想するのは困難で、ただただ不気味さだけが残る。

シラー教授は、みんが株式市場にあまり心配していないと指摘する。
それよりドナルド・トランプやボリス・ジョンソンに興味を寄せているという。
教授は、大方の予想とは逆に、米中貿易戦争はどんどんエスカレートする可能性があると考えている。

「トランプは自分自身の直観をおおいに信頼しており、それぞれの権威に耳を傾けようとしない。
だから、支持率が下がるにつれ、もっと乱暴になると予想している。」

シラー教授はこれまで、あまり政治的スタンスを明らかにせず、淡々と政治による経済・市場への影響を解説してきた。
結果、リベラル派が多いエコノミストの中では極めて中立的にトランプ大統領を語ってきた。
しかし、この日は大統領選挙についてかなり明確に本音を話している。

「私はバイデンがいいと思っているが、それは勝つ確率が高いからだ。
それこそ支持が集まる理由になる。
ドナルド・トランプと比べれば誰だってましだ。」

教授によれば、バーニー・サンダース上院議員は社会主義者を自認しており勝てないだろうという。
エリザベス・ウォーレン上院議員も左寄り過ぎて、あっても「驚きの勝利」になるだろうという。
教授は、この2人のいずれかが勝利すれば、市場にはマイナスになる可能性が高いという。

「サンダースやウォーレンの問題は、彼らが金持ちの投資家に課税しようとしている点だ。
これは市場にはマイナスだ。
といいながらも、市場は常に論理的ではない。」


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