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ローレンス・サマーズ氏が発し続ける老人の小言の真相

ローレンス・サマーズ元財務長官が、中央銀行高官の「習慣」について老人の小言とでもいうべき批判を続けているが、これにはあまり知られていない事実が背景にあった。


中央銀行家の世代は、自分たちをウォークネスによって定義している。
どれだけ社会を心配しているか、どれだけ環境を心配しているか、どれだけ金融へのアクセスや企業倫理を心配しているかで定義している。

サマーズ氏がBloombergで、中央銀行家のかたくなな姿勢がどこから始まったものかを短く語っている。

ウォークネス(Wokeness)とは、社会的不平等や不公正を認識し立ち向かうこと、といった意味の言葉。
アフリカ系アメリカ人の一部に《気づく, wake》の過去分詞として《woke》を用いる例があり、それが名詞化した。
ただし、皮肉を込めて使われる場合もあるので、地雷を踏みたくない人は避けた方がいいかもしれない。

バイデン政権側からすれば、良く言えば老婆心、悪く言えば口うるさい老人といったところだ。
サマーズ氏の方は、味方陣営から厳しい批判を受けても、インフレ懸念を口にするのをやめない。
供給制約や海外経済の鈍化が経済成長の妨げになるとして、スタグフレーションのリスクにも言及している。

彼らは成長し、そのすべての経験はインフレが目標より低い時代に形成された。
だから、その習慣を捨てるのはとても難しいんだ。

ニュー・ケインジアンらは、インフレの先行きにとって人々の抱くインフレ期待は重要な要素だという。
それと同様に、金融政策の先行きにとって中央銀行家の抱くインフレ期待は重要だ。
米国では前者が一部変化を始めたのではないかと心配されているが、後者についてはまだバックワード・ルッキングが強いようにも見える。

1970年代の深刻なインフレは1980年代初めのボルカー・ショックによって終わりを告げた。
そこから40年弱が経っている。
ボルカー・ショック時に新卒としてエコノミスト職についた人でも60歳を超えている計算だ。
エコノミストとして一定の見識を得てから起算するなら60代半ば以降となろう。
多くの高官がエコノミストとしてのキャリアのほとんどにおいてディスインフレしか見ていない。
ましてやインフレが発生する過程に居合わせた人は皆無に近い。

ジェローム・パウエルFRB議長は68歳、1970年には17歳の高校生だった。
ジャネット・イエレン財務大臣は75歳、1970年には24歳の大学院生だった。
サマーズ氏は66歳、1970年には16歳、飛び級でMITに進学した。
(サマーズ氏が財務長官を務めたのは1999-2001年、44歳で就任している。)

サマーズ氏は実はこの中で一番若い。
(一方で、他の2人より20年ぐらい先に上り詰めている。)
他のFRB高官にも同世代が少なくない。
つまり、同世代に対して老人の小言を言い続けている。

外野からすると、この構図が面白い。
そして、現実がどちらに転ぶのか、興味をそそられるのだ。
日本の場合、停滞が来ることはあっても、インフレが来る確率は依然低いだろう。
しかし、日本人は意味もなく諸外国の影響を受けやすい癖がある。
たとえ前提条件に変化がなくても右に倣って政策を変更するのが大好きな国民性だ。


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