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ローレンス・サマーズ氏、ポール・クルーグマン教授らの楽観を批判
2021年11月8日

ローレンス・サマーズ元財務長官が、インフレへの懸念を強め、ポール・クルーグマン教授らハト派のインフレ対応についての楽観論をほぼ全否定した。


現状の政策はまだ経済の実態と整合していない。
金利は中立金利よりはるかに低く、労働市場は引き締まっている。
これはインフレ低下でなくインフレ上昇を生み出すものだ。

サマーズ氏がBloombergで、今後1年あまりの先行きについて心配を深めた。
民主党エコノミストの代表格であった同氏は(この観点については)今や共和党からエールを贈られるほどの存在になっている。
サマーズ氏はインフラ投資などバイデン政権の政策の方向性を称賛する一方、問題点は鋭く指摘する姿勢を続けている。

FRBが制御するのは金融環境だ。
金融環境を実質金利や資産価格で測ると、水曜日のパウエル議長発言や1-2か月前よりも緩和的になっている。
インフレは上昇し、金融環境は引き締まっていない。
だから、危うい道だと心配しているんだ。

先週2-3日開催のFOMCではテーパリング開始が決定された。
にも拘わらず、市場はそれを即時に織り込もうとしない。
すでに織り込み済みということもあろうし、別の将来シナリオを織り込んでいる場合もあろう。
1つ問題なのは、金融政策を穏やかに引き締めるべき時に、FRBがそれを企図してもそうならない状況だろう。

さらに問題なのは、インフレ上昇が実質金利を押し下げる方向に働くことだ。
リフレ政策が成功すればするほど、仮に金融政策を据え置いていても、金融緩和は強化され、よりリフレ的になる。
実質金利の観点から言えば、インフレが望み通り上昇した場合、金融緩和の強度を維持したい場合でも、期待インフレ率上昇分だけ名目金利を上昇させることが必要になる。

米ブレークイーブンインフレ率(青)と10年物価連動債利回り(赤)
米ブレークイーブンインフレ率(青)と10年物価連動債利回り(赤)

期待インフレの実測値として用いられるブレークイーブンインフレ率、実質金利の実測値として用いられる物価連動国債利回りを見てみよう。
プラスの需給ギャップが問題視されている今、実質金利は大きく水面下に沈んだままだ。
マイナスの実質金利は(金融政策の常道どおり)借金してモノを買うことを奨励する。
だから、需給ギャップが広がり、物価や資産価格が押し上げられる。
これは目下の社会問題であるはずのインフレや資産インフレを後押しする。

サマーズ氏は、「かつての級友」ポール・クルーグマン教授などハト派・ケインジアン側の「思慮深い人たち」の「リスク回避原則」を紹介する。

『景気後退なら破滅的となり、こうせざるをえない。
インフレは制御可能な問題だ。』

今は緊急時だから刺激策を継続または強化すべきという議論はよく聞かれてきた議論だ。
この原則は次に(緊急事態は終わっても)まだ停滞だから刺激策を続ける、(停滞は終わっても)刺激策の余地がないから停滞しないように刺激策を続ける、と発展する傾向がある。
そして、その結果生じうるインフレ等副作用については《いつか来た道》であり対処可能という。
将来の社会・経済・政治環境が予見できないことを無視した、リフレ派やMMT論者の常套句だ。
(皮肉にも今の米国こそインフレ退治の難しさを示す好例となっている。)

サマーズ氏はこの楽観的見通しをほぼ全否定している。

私は、リスクに対し防御を取ることには賛成だが、私の考えは、もしもインフレが加速すれば、中央銀行にソフトランディングを演出する証明された能力はほぼ存在しないというものだ。
だから、労働市場のあと少しの引き締まりを絞り出すために(インフレの)リスクを取るなら、とても深刻な問題を生むことになる。

サマーズ氏は先月、米失業率が中立失業率を割り込んだとの見方を示している。


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