海外経済 政治 書評

ロバート・シラー教授が奨める行動経済学の5冊

ロバート・シラー教授が、行動経済学の書籍の中から5冊を推薦しているので、簡単に紹介しよう。


人々のための経済システムを考案できるようになるためには、まず人々を理解しないといけない。
人々に対する理解は前世紀あるいは半世紀の間に加速している。

シラー教授がFive Booksのインタビューで、行動経済学者としての矜持を述べている。
続いて教授が推薦した同分野の5冊は以下の通り:

1. アダム・スミス『道徳感情論』

(amazon: 『道徳感情論』

「この本がすごいのは、時代遅れな例も散見されるものの、スミスが人々の日々の生活を考える上で重要な人間の特性を明らかにすることに興味を持っている点だ。
そのために必要な驚くほど洞察深い能力を彼は持っている。」

いきなり超重量級の著者の本が推薦されている。
シラー教授によれば、本書の中に社会をうまく機能させるためのヒントが示されているのだという。

私たちは利己的な感情からスタートし、それが他者への共感と混ざり合い、称賛に値する者になりたいとの成熟した欲求を抱くようになる。
人々がそうすることこそ私たちの文明の根幹だと思う。

2. アルバート O. ハーシュマン『情念の政治経済学』

(amazon: 『情念の政治経済学』

ハーシュマンはドイツ出身の政治経済学者。
シラー教授によれば、今日の文明の根幹をなす思想の歴史をたどった本だ。

その思想とは、人間の本性は基本的に粗暴で破壊的である、あるいはそうなる可能性があるものの、私たちはその種の衝動が文化的に振舞うような場所を与えるよう社会を設計してきた、というもの。
それが資本主義だ。
だから、資本主義の恐怖について考える時には、このシステムでなかったらもっと悪くなっていた点についても考えなければいけない。

3. リチャード・セイラー他『実践 行動経済学』

(amazon: 『実践 行動経済学』

これは今更紹介する必要もないだろう。
その《経済学》があまりにも面白すぎて迫害に遭ってきたセイラー教授の有名すぎる著書だ。
同教授はいつもこの本にサインするとき《ナッジを良い目的に》と書くという。
決して面白いだけでなく、社会的な使命感によるものであろうことはシラー教授の紹介にも表れている。

現在(の行動経済学)は、人々を理解する点でアダム・スミスよりかなり進歩していて、それが経済に対する異なるモデルを示唆している。
本書は偉ぶった書き方ではないが、とても重要な本だ。
これは異なる経済モデルであり、政府がどうかかわっていくべきかを書いている。

伝統的な経済学が必ずしも人々を救えていないとの思いが滲む言葉だ。
ケインジアンも新古典派も再三の危機を防ぐことができず、そこから救出しかつ借りを返すこともできていない。
異なるアプローチが必要との考えは、徐々に支持を集めてきている。

4. ラグラム・ラジャン『フォールト・ラインズ』

(amazon: 『フォールト・ラインズ』

この本もあまりにも有名であり、名著だ。
浜町SCIコラムの中で書評として取り上げたが、私たちは衝撃を受け、本書のあまりのすばらしさ、密度の濃さに驚き、書評にならなかったのを覚えている。
とりわけリーマン危機を引き起こした住宅バブルの政治的背景を長期的な視点で論じた部分は強く印象に残るものだった。

バブル研究の権威であるシラー教授による評はこうだ:

私がこの本を称賛する理由は、表面的でない点だ。
私たちが経験してきた経済危機の究極の原因に迫っている。・・・
私はラジャン教授が迫ったより多く究極の原因に迫りつつあるかもしれないが、それでも彼の本を称賛する。
この本には、私の本にないこと、私が考えもしなかったことが書かれている。

5. Jacob S. Hacker他『Winner-Take-All Politics』

(amazon: 『Winner-Take-All Politics』

残念ながら和訳されておらず、筆者も読んだことがない。
原題は「勝者総獲りの政治」、副題が「ワシントンはいかにして金持ちをより豊かにし、中間層に背を向けたか」とされている。
シラー教授による解説もそれにそったものになっている。

5冊を通していえることは、シラー教授がよりよい社会を実現するための経済学を求めていること。
そのために新たな仕組みを提案しようということだ。

いつも人々を悩ませる疑問とは、社会が本当に私たちの精神的な生活、共同体意識を最適な形で最適化してくれているのかということだ。
これを実現するには、資本主義体制に留まるにしても、何かナッジが必要だ。
それをアカロフと見出そうとしている。

人間とは利己的なものと達観し、その人間が良い社会を形成できるような工夫がいる。
しかも、目指すのは、現在のGDPのような金銭的な数値の向上だけにとどまらない。
シラー教授は再び難しいテーマに取り組もうとしているようだ。

とても面白いインタビューになっている。
5冊の本を紹介するためのインタビューだが、そこにシラー教授の思想が明確に表れている。
教授は実証研究でノーベル賞をとるほどだから、ファクトや歴史を重んじる。
その一方で、適度に傾くことを厭わず、それが聴衆にインスピレーションを与えることにつながっている。

J.K. ガルブレイス『ゆたかな社会』

実は5冊の推薦図書に加え、あと1冊取り上げられている本がある。
シラー教授が11歳の時に読み、少年の人生を決めた本だ。
11歳でねえ・・・

(amazon: 『ゆたかな社会』

この本は深い問題について書いていた: 私たちは急速に富を増やしているが、それが私たちに何をしてくれるのか?
賛成するわけではないが、ガルブレイスの言うことにはいくつか真実の要素がある。
私たちは、私たちが必要としない需要を生み出そうとするマーケターや企業によって操られている。

シラー教授によるマーケティング批判にはいつも胸のすく思いだ。
企業や政府に悪しき、あるいは行きすぎたツールを与えている感さえある。
ナッジと同様、マーケティングも良い目的のためにないといけない。


-海外経済, 政治, 書評
-

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 本文中に《》で囲んだ部分がありますが、これは引用ではなく強調のためのものです。 その他利用規約をご覧ください。