モルガン・スタンレーの売り推奨が示唆する変化

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米モルガン・スタンレーがMBSをショートする戦略を検討しているという。
このロング・ショート戦略には、ある重要な前提が存在しているように見受けられる。(浜町SCI)


Bloombergによれば、モルガン・スタンレーが静かにMBSのショートを狙っているのだという。

「モルガン・スタンレーの資産クラス横断のストラテジストによれば、米国債とエージェンシーMBSのスプレッドが開くと見込まれる。
ファニーメイ保証の3%クーポンのMBSをショートし、5年と10年の米国債を半分の金額ロングするよう示唆している。」

現状のMBSのスプレッドはリスク・テイクに見合わないほどタイトになっているという考えだ。
モルガン・スタンレーは、FRBの金融政策正常化(バランスシート縮小と利上げ)や世界的なリフレの進展が、MBSのスプレッドを正常化すると予想している。
裏を返せば、MBSのスプレッドを過小にしたのは金融政策とディスインフレである。
FRBの量的緩和では米国債とMBSが大胆に買い入れられた。

FRBの総資産(青)、通貨流通量(赤)、保有国債(緑)、保有MBS(紫)
FRBの総資産(青)、通貨流通量(赤)、保有国債(緑)、保有MBS(紫)

FRBは今月から再投資の一部を停止しバランスシート縮小に着手する。
ここで実行されるのは、あくまで再投資の停止だ。
再投資が停止されれば、償還期限を迎えた保有資産がバランスシートから消えていく。
MBSの原資産は住宅ローンであるため、償還期限までは長い年月を要する。
これに対処するには、FRBは保有MBSを少しずつ売却する必要がある。


モルガン・スタンレーの戦略で特筆すべきは、スプレッドに注目している点だ。
米国債利回りが上昇すれば、MBS市場の利回りにも上昇圧力(MBS価格には低下圧力)がかかる。
しかし、それだけではスプレッドに影響が及ぶかはわからない。
モルガン・スタンレーは、両者の間のスプレッドが拡大すると見ているのである。
これは、市場が再びMBSのリスクを認識し始めるとの見方を反映している。
そのリスクとは何か。

S&Pケースシラー住宅価格指数(20都市、青、左)と米10年債利回り(赤、右)
S&Pケースシラー住宅価格指数(20都市、青、左)と米10年債利回り(赤、右)

まずは、住宅価格が2006年の住宅バブルの頃に近づいており、価格の趨勢に変化が起こりうること。
次に、経済にブレーキがかかった場合に、住宅ローンにデフォルトが増えると懸念されること。
最後に、MBSが市場で売却された場合、市場の需給が悪化しかねないこと。
モルガン・スタンレーは、FRBの金融政策正常化がこうした変化を引き起こすと予想したのであろう。

モルガン・スタンレーのスタンスは控えめだという。
もしも、もくろむような変化が起こらない場合、ショート・ポジションを維持するコストがかさみ、マイナス・リターンになりうる可能性も認めている。
それでも、このショート・ポジションにはリスクが小さいという。
このポジションは、いわば弱気な市場展開を想定したものだ。
これが失敗する場合、他のリスク・オンのポジションが十分儲かるはずだとモルガン・スタンレーは語っている。

山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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