マイナス金利が総需要を拡大するかは疑問:ローレンス・サマーズ

ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、マイナス金利政策について言及している。
その中で、同手段の効果自体に大きな疑問を投げかけている。


「『金利はゼロより下には下がらない。
金利をゼロより下げなければいけないなら問題だ。
でも、世界がどう機能するか大きく違った理論になるわけではない。』
こうした考えは正しくない。」

サマーズ氏がPeterson Institute for International Economicsでの公演で、マイナス金利政策について安易に考えるべきではないと警告した。
同氏は大きく3点課題を挙げている。

「まず、下限としてのゼロ金利やゼロに近い金利が現代の経済において現実的な制約になっていると考えている。
そして、私たちの社会は、その制約が問題にならなくなるほどまでキャッシュレスにはならないだろう。
かなりのマイナス金利の導入については深刻な政治的波及効果が起こるだろう。」

マイナス金利を生み出し、その効果を社会に波及させるのには現実的なハードルが多い。
まず、大きなマイナス金利に対して人々はタンス預金で対応するだろう。
紙幣を廃止し電子マネーだけの世界にするなら、マイナス金利が社会にいきわたることになるが、そこまでのキャッシュレス化は(ありうるとしても)相当長い時間がかかる。
また、現預金保有に事実上マイナス金利を課すということ自体、相当に不人気な政策になるだろう。

ただし、この課題は意志(最終的には国民の意思)さえあれば克服できるだろう。
本当の問題はここにはない。
本当の問題は、何のためにマイナス金利政策をとるのかにある。

「2つ目に、金利をゼロよりかなり下まで引き下げることが総需要に対してプラスの効果を及ぼすかどうかはまったく明らかでない。
金融仲介手段の健全性への示唆において、かなりの疑問が存在する。
マイナス金利が金融仲介者の収益性を制限し、資本への重しが信用のフローに大きく影響する。」


よく言われる市中銀行の収益問題だ。
金融緩和政策は市中銀行を手足として使うことで成立している。
その市中銀行の収益を悪化させれば、本末転倒な現象が起こりかねない。
金利低下がリスクに対するリターンを小さくしすぎれば、市中銀行は合理的な対処法としてリスクを取らなくなってしまう。

しかし、これも本質的な問題ではないかもしれない。
最近、日欧で噂されているように、マイナス金利での市中銀行への資金供与という方法もあるからだ。
より本質的な問題はそれとも別のところにある。

対象とされる預金者は金利低下で悪影響を被り、貯蓄を減らすのではなく増やすかもしれない。
そして、金利低下とともに消費を減らすかもしれない。

金融緩和とは金利を引き下げて信用創造を促す営みだ。
いじわるな言い方をすれば、この本質は、預金者を害し、支出(投資・消費)をする者を優遇する営みだ。
支出が増えるから需要が増え、景気がよくなり、物価が上昇するという話になっている。
しかし、世界中、特に日本においてこの構図が必ずしも機能しなくなっている。

サマーズ氏が指摘した現象はまさに現在の日本を示している。
そして、それを残酷な将来と絡めて言い直している。

これは本質的に、金利低下には小さくない所得効果が存在することと同義なのだ。
将来の消費が割高になり、人々が富や所得の大きな部分を貧しくなる将来の消費に割り当てようと計画するのだ。

サマーズ氏は「金利低下の需要への影響ははっきりしない」と話している。
そして、3つ目の問題点を加えている。
仮にマイナス金利が総需要にプラスだとしても、心配すべき副作用があるという。

  • バブルを生む傾向
  • ゾンビ企業の延命
  • レバレッジ拡大による金融不安定化
  • 競争の力学が悪化し生産性向上へのプレッシャーが減る

サマーズ氏は、マイナス金利政策について過度に期待すべきでないと釘を刺している。

ゼロ金利近傍について想像力が豊かだからといって、今直面しそうなこれら課題を解決できると思ったら間違いだ。


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