ブラックロック
 

ブラックロック、制御されたヘリコプター・マネーを推奨

資産運用の世界最大手ブラックロックが、限定・制御されることを前提にヘリコプター・マネーを奨めている。
米知識層において、次の景気後退期にやれる政策が少ないことがコンセンサスになっているのだろう。


次の経済停滞期に対応するには先例のない政策が必要になる。
世界の金利がゼロかそれ未満に低下するにつれ、金融政策はほぼ消耗しつくした。
・・・
財政政策は、高い債務水準や典型的な実施の遅れを考慮すると、タイムリーに大きな刺激を与えるのに苦労するだろう。

ブラックロックが自社サイトで、次の景気後退期の刺激策について提案している。
金融・財政政策ともに課題がある中で、両政策の協調が必要との考えを示したものだ。
その一方で、MMT等の言葉を出さないものの、完全なマネタリー・ファイナンスやヘリコプター・マネーとは一線を画すよういくつも条件を付している。
金融・財政政策の協調については「ソフトな形の協調」と書いている。
独立した中央銀行を維持し、政策規模の決定、物価の監視を続けさせるべきとの考えからだ。

ブラックロックは自らの提案を「going direct」と書いている。
中央銀行から(政府を介さず)支出する主体にお金が回るためだ。
ヘリコプター・マネーの形をとることで、従来の金利調節が効かなくても実施でき、クラウディング・アウトも起こさなくてすむのだという。
もちろん、こうした手法にはリスクがともなうため、ブラックロックは条件となる検討を4つ挙げている:

1) 非常時の協調を発動する、非常時の状況の定義
2) その状況で財政・金融当局が達成の共同責任を負う明示的なインフレ目標
3) 建設的な財政政策を機敏に発動できるメカニズム
4) 明確な出口戦略

いずれも極めてまっとうな考えだとは思うが、人間の社会においてこうした美辞麗句が担保されるのかとの疑問もわく。
日本では似たような議論が7年ほど前にあった。
金融・財政政策の協調がアコードとして取り交わされ、デフレ退治が始まったが、政府がデフレ終焉を明言しても政策は終わらない。
日本の場合は、アベノミクス1年目を除けば財政政策が抑制的だった面があり、それがいくらかインフレに影響を及ぼしたのかもしれない。
しかし、問題はそこではない。
政府が経済回復を自慢するようになっても非常時の政策が終わらない、それが問題なのだ。
政治家が在任中に拡張的政策の継続を求めるのはどの国でも同じこと。
米国がますます日本化する可能性はそう低くないように見える。


ブラックロックはどこに終点があると考えているのか。

「この政策の規模は中央銀行によって決定され、インフレ目標を達成するよう調整される。
インフレ目標には過去の未達の取り戻し分を含む。
一たびインフレの中期トレンドが目標まで戻り、金融政策の余地が戻れば、政策は終了する。」

米国の場合、7月のコアCPIは前年同月比2.2%と、物価目標達成の現実味は低くない。
過去の未達分を取り戻すとは、もう少し金融緩和に浸っていたいという話だろう。
これに比べ、「金融政策の余地が戻」るというのは相当に遠い話だ。
景気後退期には通常4-5%の利下げが必要なのに、現在のFF金利誘導目標は2.00-2.25%だ。
ここから実質金利を4%下げるなら、ゼロ金利と4%物価上昇が必要だ。
つまり、このプランには出口がない、あるいはインフレ昂進が必要、のいずれかなのだ。

ブラックロックほどの会社がこの隘路に気づいていないはずもない。
それでもこうした提案が出てくるのはなぜなのか。
それは、政治・社会の分断に理由があるのだろう。
次の景気後退期、必ず経済的困難に陥る人が多く出る。
これを救わない理屈はないし、幅広く助ける努力を怠れば、それこそ極端論者・ポピュリズムにチャンスを与えてしまう。
彼らは荒唐無稽なバラ色の経済政策を語り、苦しみのあまり冷静に判断できない大衆の票を勝ち取るかもしれない。
そうならないために、まともな人たちは説得力のあるまともな案を用意しなければならないのだろう。


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