ビル・ゲイツの増税論はデレバレッジを生む

マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏が財政赤字と税制について語った。
そこには、まだ多くの人が気づいていない潜在的な変化が隠されている。


「私はもっと税金を納めないといけないね。
私は100億ドル(約1.1兆円)を超える税金を払ってきたし、誰よりも多く納税してきた。
しかし、政府は私のような地位にある人間にもっと多くの税金を支払うよう求めるべきだ。」

ゲイツ氏がCNNで話した。
1つランクが下がったとは言え、世界第2位の富豪である同氏は、史上最高額の税金を納めてきた納税者の1人だ。
普通の富豪は1兆円の税金はおろか、1兆円の所得も稼げはしない。
富豪ランキングに上位の人たちも、多くは含み益込みの資産額が多いだけで、納税額も大きいとは限らない。
某国の大統領(ゲイツ氏と比べれば取るに足りない小金持ちだが)などは、あの手この手で税額を減らし、それがゆえに納税申告書を開示できないと噂されている。

1兆円超を払ってきた人が、もっと払わなければと言っている。
Bloombergによれば、増税のしかたにも言及している。

「もしも増税を考えるなら、もちろん累進課税とすべきだ。
トップ1%やトップ20%からの部分をもっと高くすべきだ。
巨万の富をターゲットにするなら、20%というように低いキャピタル・ゲイン課税(の税率)を増税すべきだ。」

昨年のトランプ政権・共和党の税制改革では、35%だった連邦法人税率が21%に引き下げられた。
これら減税が、米財政赤字をさらに拡大することになった。
ゲイツ氏はそれを踏まえて増税が必要と話している。
その主張は、減税を元に戻すことではなく、個人のキャピタル・ゲイン課税の強化なのだ。
ゲイツ氏は、法人減税が産業・雇用に与える効果を認めているのであろう。
だから、主に法人減税で穴が空いた部分を個人のキャピタル・ゲイン課税で埋めようと言っている。


企業は株主の所有物と考えれば、法人税を減らしてキャピタル・ゲイン課税を増やすことは同じことのように聞こえる。
そもそも、税制の中に法人税と投資収益への課税が共存することには批判もなくはない。
法人の利益の段階で課税され、投資収益を得る段階でも課税されるため、投資家にとっては二重課税になっているのだ。
今回の話は、この二重課税の片方を緩め、片方を締めることのようにも見える。
しかし、ことはそれほど簡単ではない。

米法人税率が下がった時、米企業が失ったものがある。
それは、債務の税遮断効果(タックス・シールド)の一部である。
債務のコストである利払いは利益を減らすが、利益が減ることで税金も減る、この節税効果のことを指している。
この効果は(税率×債務金額)で近似される。
昨年の税率引き下げでは最大14%のタックス・シールドの喪失があった。
実際には、企業はすでに各種節税策をとっていたからこれほどは大きくないが、それでも減ったことは間違いない。
それでも皆が騒がなかったのは、それよりはるかに大きな減税が得られたからである。

仮に、減収分を個人の投資収益への課税で補うとすると、これはタックス・シールドには関係してこない。
つまり、株主の段階では、この分が損になる。
これは、どのように感じられるのか。
1つは、自社株買いが以前ほどは有利でなくなるということだろう。
(借入れによる)自社株買いとは、発行済み株式総数を減らすとともにタックス・シールドを稼ぐ営みだった。
そのうまみが半減してしまう。

金融システムにとっては悪い話でもない。
タックス・シールドが減るということは、レバレッジのうまみが減るということだからだ。
投資リターンは減るが、システムは安全になるという話なのかもしれない。
社債屋・銀行の仕事が減り、株屋の仕事が増えるのだろうか。
もっとも、デレバレッジは株の値動きを緩やかにするから、株屋にも災難かもしれない。


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