ビル・グロス:無保険で迎える苦境

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債券王ビル・グロス氏が月例書簡で金融・経済の現状を俯瞰している。
グロスイズムを感じさせるコンパクトな書簡となっており、長編で紹介しよう。


「市場の高値(1987年、2000、2007年)の前、資産運用者は米国債を購入することでリスク資産に対し一部『保険』をかけることができた。
FRBが利下げする時に米国債価格が上昇しうるからだ。
今日、低金利のためこの『保険』は限定的にしか得られない。」

グロス氏は今日の運用者の困難を語っている。
不況が来れば中央銀行は金融緩和をしてくれる。
金利が下がれば債券は上がる。
だから、国債保有はリスク資産の下落リスクを相殺する効果があった。
しかし、債券の超長期サイクルはまさに終わり、金利低下は行き着いたかもしれない。
さらに、政策金利はまだまだ歴史的低水準にある。
結果、国債保有がリスク・ヘッジのツールとして働きにくい。


リスクに見合う対価が得られない

このためリスク資産がより『保険をかけられない』(確率分布の)左側の裾野にあり、より高いリスク・プレミアムが付されるべき状態にある。
政策の失敗、地政学的危機または他の現在の予見できないリスクによって危機が起これば、過去と比べて元本を守ることが難しくなっている。

さまざまなリスクに対応するリスク・プレミアムの現状はどうだろう。
中央銀行が大規模な資産買入れを行った結果、多くのリスク・プレミアムはタイト化した。
タイトなスプレッドはリスクに見合ったリターンを提供しているだろうか。
貸し倒れリスクに見合う貸出金利が得られなければ、銀行はお金を貸さない。
それは、お金を預けてくれた預金者に対する責任でもある。

「これ(元本を守るのが難しさ)がまたFRBに用心深く緩和を維持するよう求める理由となる。」

緩和をし過ぎたことがアリ地獄を生んだ。
本来ならリスク・プレミアムを適正な水準まで戻すべきなのに、それが金融不安定化を引き起こしかねない。
結果、金融緩和から抜け出すことがより難しくなっている。

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