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ジョセフ・スティグリッツ パウエル議長再選は適当でない:ジョセフ・スティグリッツ
2021年9月10日

ジョセフ・スティグリッツ教授がパウエルFRB議長の再選について述べた否定的なコメントには、目的を別として大きな危うさがある。


バイデン政権が主要課題の中核を実現したいのであれば、(次期FRB議長は)パウエル氏ではないはずだ

スティグリッツ教授がReutersに、来年2月のFRB議長任期についてコメントした。
教授のパウエル議長評は厳しい。
議長のパンデミック対応について一定の評価はするものの、それは「FRB議長としての最低限の条件」との評価にすぎない。

スティグリッツ教授が候補に挙げる1人は下馬評にも挙がっているラエル・ブレイナードFRB理事。
ハト派、金融規制・気候変動・経済格差への対処に前向きな人物だ。
つまり、民主党のプログレッシブから受けが良い。

スティグリッツ教授は良心の人だから、今回の発言も善なる目的があって語られたものだろう。
しかし、目的は善であっても方法は適切だろうか。
教授がFRB議長の人事にまで注文をつけるのには長年の思いがあるのではないか。

スティグリッツ教授は、経済が停滞している時には(金融政策だけでなく)財政を使うべきとの考えの持ち主だ。
リーマン危機後もそれを主張したが、オバマ政権下で議会は共和党が支配しており、実現しなかった。
結果、この時代、経済の下支えはもっぱら金融政策に依存することとなった。
トランプ政権になると、共和党は手のひらを返したように財政政策に積極的になったが、その目的はスティグリッツ教授が考えるのとは程遠いものだった。
企業や金持ちを利する内容だったのだ。
ただ1つ救いだったのは、財政政策によって金融政策の正常化が進みかけたこと。
これは、次の停滞期の伸びしろになるはずだった。
しかし、それも道半ばで市場の混乱により頓挫し、金融政策は相当に引き伸ばされた状態にある。

議会の状況はオバマ政権の頃よりはるかに良い。
しかし、中間選挙もそう遠くはない。
中間選挙が不利な結果に終われば、議会(財政当局)は再び停滞しかねない。

ブレイナード理事はハト派、金融規制・気候変動・経済格差への対処に前向きだ。
ハト/タカ、金融規制はともかく、気候変動・経済格差への対処は本来の中央銀行の指名だろうか。
過去はそうでなかったし、金融政策に中立性が必要とするならば今でもNoだろう。
これらへの対処(つまり、これら施策に資産買入れ等でお金をつけること)は事実上の財政政策であり、それは財政当局たる議会の役割だろう。

多くの国で中央銀行の意思決定は少数の政策委員の評議によって決まり、会議の長を務める者の影響力は絶大だ。
私たちは、そんな少数の人たちに莫大な事実上の財政政策を実施する権限を与えただろうか。
多くの場合、国民が選んだ人事ではなく、議会等の承認人事だ。
大多数の国民は、ほとんどの委員について名前さえ知らないだろう。

目的が善なら手段が正当化されるとの風潮は危険だ。
決められた手段にハードルがあって目的が困難ということは多いだろう。
しかし、ハードルは無意味に設けられているわけではない。
財政政策が動けないなら金融政策に何でもやらせてよいというわけではない。
正々堂々ハードルをクリアすることが求められているから、ルールが定められている。

もしもどうしても金融政策で(疑似)財政政策をやるのなら、いくつか条件をつけるべきだ。

  • 委員に公選制あるいは国民審査を導入する。
  • 買入れ対象資産を議会が指定する。

などだ。

こう考えると、金融政策の使命を拡大解釈するのはやはり非効率のように感じられる。
その点で、FRB議長も日銀総裁も(暴走しつつある欧州を尻目に)絶妙のたぬきぶりを発揮しているように思える。


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