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バブル崩壊は大したことじゃない:ポール・クルーグマン
2020年6月17日

ポール・クルーグマン教授が、株式市場の「狂気」について書いているが、なんとも不思議な感覚を抱かせる文章になっている。


「ハーツはコロナ時代の株式市場に吹き荒れた狂気の一番手だ。
この狂気はかなりの害になるかもしれない。
株価そのものが大して重要ではないからではなく、ドナルド・トランプと子分たちが株式市場を成功の物差しとして扱っているからだ。」

ハーツ・グローバル・ホールティングス株価
ハーツ・グローバル・ホールティングス株価

クルーグマン教授がThe New York Timesで、ハーツ株に起きた珍事を引いて、株式市場の「狂気」を指摘した。

レンタカー大手のハーツはコロナウィルスの影響を受けた代表格の企業だ。
破産法11条の適用申請を検討していると伝えられたのは4月末。
結局5月22日に同社は実際に申請を行うこととなった。
コロナ・ショック前には20ドルを超えていた株価は一時1ドルを割り込んだ。
破綻したのだから当たり前だ。
借金を返せない(あるいは維持できない)のだから破綻したのであり、借金を返せなければ株価はゼロでもおかしくない。

ところが、6月に入り経済再始動が期待されると、株価は上昇に転じ、8日には5.53ドルで引けている。
投資家は破綻企業に対し(まず不可能な)コロナ後の自律的な復活を期待したのだ。
株式に需要があると見たハーツは、異例の資金調達を試みることとなった。
12日、破綻企業でありながら新株発行増資を行うと発表したのだ。
15日の目論見書では、価値がゼロになる可能性、上場廃止となる可能性が注意喚起されている。

クルーグマン教授はこの一連の経緯を「狂気」と呼び、有害である可能性を指摘する。
その主たる理由は《敵》が株高を自分の手柄にしている点だ。
もっともこういったやり口はそう珍しいものではない。
経済政策を公約した時、株高・円安で市場が反応したことをもって「勝負はもうついている」と自画自賛した政治家がいたことを記憶している読者も多いことだろう。
その政治家が自身の経済政策の正しさを主張するのに度々クルーグマン教授の名前を挙げていたのはなんとも皮肉なことだ。
教授はこのコラムで、株式市場が実体経済あるいは一般的な現実とたいした関係がないと書いている。

クルーグマン教授は、コロナ・ショックによる急落からの急回復をバブルと考えている。
そして、ロバート・シラー教授がバブルを自然発生のポンジ・スキームと説明した考え方を紹介した。
先にお金を入れた(=買った)投資家がいて、株が上がり始めると、後追いの投資家がお金を入れる(=買う)。
先行した投資家は売り抜けるが、後追いの投資家は損をする。

今バブルはおそらく破裂している。
それは重大なことだろうか?
直接的には大したことではない。
株価はもちろん事業投資や消費支出に影響を及ぼすが、その効果はおそらく小さい。

不思議な感覚にとらわれる指摘だ。
日本人にとって、この4行はとても共感・賛同のできる内容だ。
しかし、米国ではどうなのか。
アラン・グリーンスパン元FRB議長がグリーンスパン・プットを駆使して以来、米金融政策が資産効果を重視してきたのは否めない。
これに大した意味がないなら、米国の金融緩和の狙いは何なのか。
インフレ、つまり実質金利を引き下げることか。
しかし、それには銀行システムや資本主義の機能不全だけでなく、クルーグマン教授が憎む格差拡大の副作用が逃れられない。

また、クルーグマン教授が現状をバブルと考える点についても、議論があるかもしれない。
それは定義の問題なのではないか。
コロナ・ショック前後で比較すべきは、コロナ前の経済とコロナ後の経済ではない。
コロナ前の経済と(コロナ後の経済+追加的刺激策)であろう。
ところが、ハト派エコノミストには《追加的刺激策》の部分は透明になってしまうようなのだ。

経済政策のありようについて、世界は本当に道を見通せているのか心配になる話だった。


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