ヘイマン・キャピタルのカイル・バス氏が、ニッケル備蓄を継続していると明かしている。
私は子供たちに、紙幣に対する硬貨、輪転機に対する硬貨の価値を教え、中央銀行が紙幣発行によってやっていること、世界にはニッケル(5セント硬貨)を保有するより得なコール・オプションが他にないことを説明している。
バス氏がMarketWatchのインタビューで、5セント硬貨の備蓄を続けていることを明かした。
同氏の5セント硬貨備蓄は2011年のマイケル・ルイスの著書『ブーメラン – 欧州から恐慌が返ってくる』で紹介され有名になった。
バス氏は1百万ドル(約1.1億円)で20百万枚の5セント硬貨を買ったのだという。
5セント硬貨のニッケルの当時の価値は6.8セント。
金属としての価値が硬貨の額面を上回っていたのだ。
バス氏は当時、金属の相場が上昇または高止まりすると見ていたのだろう。
もちろん、バス氏の戦略には課題もある。
それは、米国で貨幣を溶かすことが非合法とされていることだ。
価値の逆転に危機感を抱いた米造幣局が2006年に法制化し、2007年から恒久化している。
バス氏は、このニッケル備蓄を今も続けているというのだ。
硬貨を溶かせないのに続ける意味があるのだろうか。
バス氏は、銀貨の前例を紹介している。
1965年まで、1ドル銀貨、50セント銀貨、25セント硬貨は純銀だったのだという。
1965年に銀含有量を半分にし、その後も減らしてきているという。
この時、古い銀貨に何が起こったか。
「1ドル銀貨、50セント銀貨、1964年の25セント硬貨について、溶かして取り出した銀の価値、そして市場で売買されている価格を見ると、市場価値は銀の価値より常に高くなっている。」
銀貨の悪鋳というありがちな物語の裏側には、貴金属の相対価格の上昇という物語もある。
バス氏が従前から金などの保有(地金での保有)を推奨していることは有名な話である。
バス氏は、銀貨で起こったことがニッケルでも起こりうると見ている。
仮に今もニッケル(地金)の価値が6.8セントだとすると
市場価値 > 地金の価値6.8セント > 額面5セント
になると踏んでいるのだ。
うまくいかなくても、ニッケル(硬貨)は5セントの価値がある。
うまくいけば、ニッケルや銅が売買されるところで常に価値を持つはずだ。
読者の中には日本の硬貨について興味を抱かれた方もいるだろう。
現在発行されている硬貨の中で、最も地金の価値が高いのは500円硬貨(ニッケル黄銅)で5円弱だ。
(当然、これに加工費等が乗っかってくる。)
日本の硬貨の地金の価値がこうも低いのは、比較的単価の高いニッケルやスズを多く使っていないためだ。
比較的安い銅・アルミ・亜鉛を多く用いることで、直接材料費が低く抑えられている。
残念ながら(もっとも日本においても貨幣損傷等取締法により違法だが)裁定を抜く余地はなさそうだ。