海外経済

ドーピング趨勢的停滞論とタオル投げの理論:ローレンス・サマーズ
2021年7月4日

ローレンス・サマーズ元財務長官は、現在の米拡張的政策が行きすぎているとしインフレ・リスクを警告し、投資家に対しては「タオル投げの理論」で忠告している。


私の目についたのは、労働参加率が上昇しなかったことだ。・・・
賃金インフレの先行きにとって少し不吉なことだ。

サマーズ氏がBloombergで、6月の米雇用統計についてコメントした。
強弱入り混じった結果となった同統計全体については大きなメッセージはなかったとするものの、同氏のインフレへの心配はむしろ強まっているようだ。
サマーズ氏は、労働市場に戻ってきている労働者が低賃金労働者に偏っており、インフレ圧力が小さく見える点も指摘している。

(住宅価格)上昇は、仮にさらに上昇しなくても、来年には物価指数に反映されていくだろう。
供給不足を考えれば、住宅価格はさらに上昇するだろう。

米住宅価格が上昇を続けている。
あるいは、米資産価格が上昇している。
その主因は金融・財政刺激策といわざるをえない。
刺激策が消費者物価を上昇させる効果に比べて、資産価格を上昇させる効果ははるかに大きい。

ケース・シラー米住宅価格指数
ケース・シラー米住宅価格指数

住宅価格の上昇が消費者物価に反映されるにはタイムラグがある。
消費者物価への住宅価格の直接的な反映は帰属家賃を通して起こり、家賃の上昇にはタイムラグがあるからだ。
また、賃料上昇が財やサービスの売価に転嫁される経路でも同様のラグがある。

「私には、FRBがこの現状でMBSの主たる買い手であり続ける理由がわからない。
この行動は景気循環を増幅する最たるものだ。」

サマーズ氏は、FRBのMBS買入れに注文をつける。
(こうした危機感は最近ではFRB高官の間でも広まりつつある。)
また、同氏の発言からは、金融政策が循環をならすように行われるべきとの信念が見て取れる。
実際、現在のFRBは好景気なのにさらに景気を刺激する、いわゆる高圧経済を望んでいるように見える。

ドーピングした趨勢的停滞論

サマーズ氏は、1日発表の議会予算局による10年予測の報告書についてもコメントを求められている。

「報告書が書いているのは、今後10年実質金利がマイナスとなり、財政赤字がGDPの5%となり、債務比率が100%を超え、すべてが持続可能ということだ。
このとおりになるかもしれないが、そうなるためには貯蓄が投資を相当に上回る必要があるか、または、相当な金額を外国から借りる必要がある。
いろんな意味で、皮肉なことだが、これは趨勢的停滞に賭けることになる。」

この論点整理は、米国が日本と似た状況に陥ったことを暗示している。
経済は立ち直ったように見えるが、実は実質金利がマイナスであるほどの低金利がその前提になっている。
仮に、経済が健全化すれば、時期はどうあれ実質金利が(中央銀行の間接的介入を振り払い)上昇に向かう。
そこで、大きな借金を負った経済は立ち行かなくなる。
(調達コスト上昇に耐えられなくなるか、通貨下落となる。)
つまりは、趨勢的停滞による低金利が必要とされており、経済回復シナリオと矛盾する前提になってしまっている。

サマーズ氏は、現在の拡張的な政策を辛口に評している。

「債務なしに、金利上昇なしに、財政赤字を増やす余地があると仮定している。
もしも正しければ、正しいことを行い、すべてうまくいく。
これが趨勢的停滞の考えだった。
現在のやり方は、実質金利が低位にとどまる予想期間や財政赤字規模において、ある種ドーピングした趨勢的停滞論だ。」

サマーズ氏が唱えた今世紀の趨勢的停滞論とは、未曽有の低金利を利用して、比較的短期間に拡張的政策によって趨勢的停滞から脱しようというものだった。
ところが、同氏にとっても、現在の財政政策の規模と期間は予想外だったようだ。
インフレ・リスクにもう少し注意するようさんざん苦言を呈してきた。

タオル投げの理論

サマーズ氏は、投資家へのアドバイスも求められている。
同氏は、自ら「タオル投げの理論」と呼ぶ経験則を紹介している。

「正確にすべての悲観派がシステムから叩き出された時に市場は最も脆弱になる。
だからこそ、おそらく史上最大のバブルである1980年代の日本は、25,000円、30,000円、35,000円と弱気派がタオルを投げていって、最後に39,000円で崩壊したんだ。」

単なる抽象的なアドバイスにすぎないが、確かにそのとおりだ。
サマーズ氏は、さらりとある重要な数字を紹介し、警告している。

2008年以降(株価が)6倍になったことから、みんなが誤った教訓を学んだのではないか心配だ。
『木は空に伸びていく』という教訓を学んだのではないか。
私は『木は高すぎると安定しない』という教訓を学んだ。・・・
マーケット・タイミングについてのアドバイスはしないが、悲観派の敗北が、皮肉なことに、より大きな悲観の基礎になりうる状態だ。

たしかに米企業には優れた企業が多いし、刺激策もあった。
しかし、それは13年で6倍という増価に対応するだろうか。
そう考えると、こうした不吉な予想というのは、本当に実現するかの問題でなく、いつ実現するかの問題であるようにも思えてくる。


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