ヌリエル・ルービニ ニューヨーク大学教授が、ドルの主要準備通貨としての地位の持続について論じている。
ドルが早死にするとの記事は大いに誇張されている。
米ドルの最近の弱さは短期的な循環的要因によるものだ。
ルービニ教授がProject Syndicateで、最近の米ドルに対する過度な弱気なナラティブについて異を唱えている。
足元のドル安はドルが主要準備通貨から転げ落ちることを暗示しているわけではないという。
教授は短期的にドル高基調に転じている要因をいくつか挙げている。
- 米財政・金融政策が他国より大規模
- リスク・オフの終了
- ドル不足の解消(通貨スワップ)
- 諸外国の中にコロナ対策で優れているところがある
- コロナ発生前のドル高(30%超)
- 貿易赤字への対処としてドル安が好まれる
ルービニ教授は、これら要因がドル安継続を約束するものではないという。
短期的にも、コロナウィルスの第2波が深刻化しリスク・オフになればドル高に戻る可能性があるという。
長期的にも、ドルが買われる要因を3つ挙げている。
- 柔軟で自由な為替・債券市場
- ドルに代わる通貨の不存在
- 米経済の相対的強さ(資本を吸引)
つまり、ドル凋落は決まった未来ではないということだ。
もちろん、ルービニ教授は、ドルがNo.1通貨から転落する可能性がないと言っているわけではない。
むしろ、拡張的財政・金融政策や米中の覇権争いの帰趨によっては、数年・数十年の時間をかけてそうした変化が起こりうるとも述べている。
受け皿は、世間のコンセンサスどおり、人民元だ。
丁寧にまとまった議論だが、一方で驚きもない内容だ。
しかし、その中の一段落にとても興味深い問題提起があった。
米国の地位を競り合おうとする国は自問しなければならない。
自国は本当に強い通貨を望み、世界からの安全資産(国債)に対する需要を満たすだけの大きな経常赤字を望むのか。
このシナリオは、強い輸出を経済成長の中心に持つ欧州・日本・中国にとって魅力的でないだろう。
なんとも不思議なものだ。
主要準備通貨を発行する国は、貿易赤字だろうが経常赤字だろうが財政赤字だろうが、単にお札や国債を刷って支払いに充てれば済んでしまう。
世界通貨のシニョリッジの恩恵を独占しているのだ。
この「法外な特権」を得ることに輸出好きな国は二の足を踏む。
輸出してお金を稼がなくても、お札や国債を発行すればいいだけなのに、それを狙いにいかない。
もちろん(軍事など)他の制約もあるのだろうが、半分言い訳のような感もある。
健全なようでもあり、硬直的なようでもある。