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米ドル ドル相場-変化は突然起こる:ハロルド・ジェームズ
2021年9月5日

プリンストン大学のハロルド・ジェームズ教授が、覇権国家としての米国の地位・基軸通貨としての米ドルの地位が揺らぎかねないと注意を促している。


「8月15日はリチャード・ニクソン米大統領が『金の窓を閉じて』から50年だった。
9月21日は英政府が金本位制を停止してから90年にあたる。
いずれも貨幣の歴史に属する逸話だが、その意味するところは金融の領域を超えている。
いずれも、ある国際安全保障体制の全体の終焉を意味している。」

ジェームズ教授がProject Syndicateで、2つの通貨制度上の出来事を振り返った。
いずれも、貨幣発行量に課せられたタガを外す話であり、それが世界の覇権や後の通貨制度の変更に関係しているとの指摘である。

1931年9月21日の英国の金本位制停止について、ジェームズ教授はその3日前に起こった満州事変を引いている。
第1次大戦後、英国は国際連盟を通じて影響力の維持を図ろうとしたが、満州事変によって国際連盟の無力が知られてしまった。
金本位制の停止は、こうした覇権国家の国力の低下とともに起こっている。

1971年のニクソン・ショックについても地政学的イベントとのつながりが深い。
ジェームズ教授は、端的に関係性を指摘する。

これ(ニクソン・ショック)はベトナムにおける米国の長い失敗がもたらしたコストだ。
その失敗が米予算を逼迫させ、他国をイライラさせたインフレ的な財政へのシフトを促した。

ジェームズ教授は「長い失敗」というように、この失敗がニクソン以前から始まっていたと考えている。
それがある時に突然表面化し、社会・経済・市場が急激な適応を求められるようになる。
教授は、アフガニスタン情勢を米国はじめ関係各国の「大失敗」と指摘する。
ここで暗示されているのは、世界の覇権が変化し、前後して通貨制度に大きな変化がありうるということだ。
ジェームズ教授は、覇権国が1か国である必要はないとも指摘している。

市場の観点からの関心事は、通貨制度に起こりうる変化が何かということになろう。
現在、米ドルをはじめ主要通貨は金本位制を採用していない。
(筆者の知る限り、主要通貨以外でも採用の例は見られない。)
では、何が起こりうるのか。
あるいは、すでに起きているのかもしれない。
2008年からの米量的緩和、パンデミックでの莫大な資産買入れが、それかもしれない。
金というタガがなくてもある程度守られていた中央銀行のバランスシートに関する規律が(善悪は別として)緩んだ瞬間だからだ。
とはいっても、米ドルが中長期的に弱くなるような傾向はまだ見られていない。

しかし、ジェームズ教授は、油断していると不意を打たれる可能性があると書いている。

みんなシステムに入ったひび割れを以前から知っているが、経済政策決定者や安全保障高官は最後の瞬間が来るまで現状を放棄する意図を否定するものだ。
崩壊が来ると(誰も準備していたように見えないため)必ず混沌としたものになる。
覇権国の信用は突如失われ、その通貨であれ国であれ、逃避がすぐにやってくる。

だからこそ、投資の世界には分散という概念があるのだろう。


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