国内経済 投資

ドル円が下落を始めるタイミング:佐々木融氏
2021年10月5日

JPモルガンの佐々木融氏が、ドル円相場において実質金利差が無視されているように見える現状を説明し、次にドル円が円高方向に転換するタイミングを占っている。


新興国も含めた世界全体でみても、実質政策金利はマイナス2.1%となっており、データを確認できる1990年代半ばからみても圧倒的に過去最低水準だ。・・・
前代未聞の超実質低金利は、すでに株価やコモディティ・エネルギー価格の上昇につながっていると考えられる。

佐々木氏がReutersへの寄稿で、世界的な実質金利の低下傾向を指摘した。

パンデミックによる経済悪化により市場金利が下がり、政策金利は引き下げられた。
一方でインフレは高まる傾向にあるから、市場金利・政策金利ともに実質ベースで低下することとなった。

佐々木氏は、長く続いたディスインフレに慣らされ、世界の投資家はインフレへの備えが十分でなかったと指摘する。
突如始まったインフレ傾向に驚き、インフレの悪影響を回避するような投資行動を採り始めたのだ。
これが、正のフィードバック・ループを生んでいるようだ。

 資産・コモディティの価格上昇
  ↓
 インフレ高止まり
  ↓
 実質金利に下げ要因
  ↓
 資産・コモディティの価格上昇
  ↓

ところが、ここに1つ独特なインフレ傾向を持つ国がある。
われらが日本だ。
他の先進国のインフレ傾向を尻目に、デフレ的傾向を示している。
政策金利に下げ余地が乏しく、インフレが上昇しないから、日本の実質金利は米国などとの比較ではるかに高い水準にある。
つまり、円金利は相対的に魅力的であるはずだ。
米国債を買っていれば毎年インフレで価値が少なからず目減りしてしまうが、日本国債ならほぼ横ばいですむ。

こうした状況でも円が買われていない理由を、佐々木氏は考察している。

それは恐らく、株価などの米国の資産価格が上昇を続けているからだろう。・・・
米国株に投資していれば、株価が上昇しているうちは、マイナスの実質金利とは無関係に資金が増えていく。
だからドルは、一定程度下支えされていると考えられる。

スタンリー・ドラッケンミラー氏は5月、外国投資家による米国債売りがドル安に結び付かなかった原因を解説している。
外国人によるドル保有が米国債から一部テクノロジー株に振り替わったために、ドル売りが起こらなかったというものだった。
仮に(米国が外国より優位にある)グロース株に不利な環境に変化するようなら、潮目が変わりうると言っていた。
グロース株に不利な環境とはたとえば長期金利上昇だろう。
仮に世界的に長期金利上昇の傾向が鮮明になれば、グロース株に調整圧力が加わり、優れたグロース株を擁する米国株市場の優位性が薄れ、ドルが売られかねないといったシナリオが連想された。

佐々木氏は、米国株や暗号資産への日本からの資金フローがドルを支えていると主張する。
もしもそうなら、こうしたフローは停止または逆回転を起こしうる。
停止や逆回転の中でも残る重要なドライバーはやはり実質金利かもしれないと佐々木氏は書いている。

「米国株や、暗号資産の価格上昇が止まった時、米国の大幅にマイナスとなっている実質金利が意識され始める可能性がある。
なぜなら、価格が上昇する資産が無くなったら、ドルに投資する意味はないからだ。」

そして、この潮目のタイミングを次のように予想している。

それは名目金利が明確な上昇トレンドを示し、実質金利のマイナス幅が明確に縮小を始める時かもしれない。・・・
その時、資産価格は崩れ、米ドルのキャッシュ・債券だけを保有することを避けるために、米ドルは売られる可能性がある。・・・
逆説的だが、日米実質金利差のマイナス幅が拡大しているうちは、ドル/円相場は下支えされ、逆にマイナス幅が急速に反転縮小し始める時に、大幅なマイナスとなっている実質金利が存在感を示し始め、ドル/円相場の下落につながるのかもしれない。

「逆説的」という言葉が印象的だ。
ロジックの経路はどうあれ、最終結論においてはまさに《リスク・オフの円高ドル安》が予想されている。
しばし忘れられていたパターンが復活するともとれる。

これは円資産を多く抱えた日本人からすると朗報かもしれない。
日本に(相対的に)不安をつのらす日本人は多い。
円の余資を外貨に換えておきたいが、最近はあまり円高のチャンスがなくなった。
そうこうするうちに、識者の中に長期円安傾向を予想する人が増え始めた。
日本人の老後の購買力はどんどん低下してしまうのではないか、との不安がつのる。

いつか外貨投資を有利に進める円高のチャンスはないか。
次に相場が荒れる時、もう1度そのチャンスが来るかもしれない。
仮にチャンスが来るなら、私たちは果敢に外貨を買い、荒れる相場の中で外国資産を底値買いできるかもしれない。
もっとも、往々にして相場が荒れる時、人々は恐怖に駆られて逆の方向に行動するものなのだ。
1つの説得力のある投資スタイルとは、世の中がリスク・オフの時にリスク・オンする意思と努力だろう。


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