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ウォール街 ゾンビ企業温存が低成長を生む:CNBC
2023年11月2日

CNBCがゾンビ企業についてのビデオを公表している。
その論旨が唯一の真実だとは限らないが、とても説得力のある内容で、かつアングルが興味深い。
ネタばれにならない範囲で紹介しよう。


米国では少なくとも上場会社の10%がおそらく返済できない借金を抱えている。(コロナ前のFRB推計)
・・・
Credit Risk Monitor社によるもっと積極的推計によれば、米上場企業の40%が実質的に生き残れないという。

なかなか胸に刺さる推計だ。
コロナ前に10%なら、今もっと高くてもおかしくはない。

長い超低金利・ゼロ金利がゾンビ企業を増やしてきた。
何もしなければパンデミックで消滅するはずが、手厚い財政政策と金融緩和がゾンビ企業を温存した。
そして、短期金利が突然5%以上も上昇したのである。
ビデオでは、今年は倒産を申し立てる上場企業が急増し、9月までで516に上ったと紹介している。
(耳を疑う数字だが、画面にそう書いてあるからそうなのだろう。)

CNBCは、決してゾンビ企業を救うべきといっているのではない。
ゾンビ企業をゾンビと呼んでいるところからして、むしろ逆なのだ。
いくつか気になるフレーズを引用しよう。

「そうでなければ健全な企業が得るはずの資本をゾンビ企業はクラウディングアウトしてしまう。」

「ゾンビ企業は、同じセクターで競合する健全な企業にとって有害な効果を及ぼす。」

「(コロナ下での支援策の)意図せざる効果とは、支援が当初ほとんど対象を定めていなかった点だ。」

「私はよくいうソフトランディングが実現し、この変化の痛みが大きくならないことを祈っているが、逆の見方をすれば、その方が経済にはいいのだ。」

ここまでは、ゾンビ企業がどう害をなすか、ゾンビ企業を温存すべきか否かの議論だ。
このビデオがよくできているのは、すでに存在するこの問題にどう対処するかについても議論しているところ。
1990年代の日本の失われた10年を先例として紹介し、米国が日本の轍を踏まないよう説いている。

当時の日本の問題は、資本不足の銀行と弱い金融監督の組合わせだった。
彼らは、政府がゾンビ企業を救済することを願って、ゾンビ企業を生かしておこうとした。
その結果、日本におけるゾンビ企業の割合は1994年の後に急増し、その後の10年は低成長が続いた。

CNBCは、銀行がゾンビ企業を温存することのないよう、貸倒損失に耐えられるだけの資本を確保させるべきと主張しているのである。
確かに、日本においてバブル後に最も悲惨な悪影響を引き起こしたのは資産デフレだった。
それが収束に向かったのには、1998年から本格化した銀行への公的資金注入があっただろう。
銀行は信用不安を心配することなく不良債権を損金処理することができたのだ。

日本におけるゾンビ企業の最も大きな罪悪とは何なのだろう。
筆者は、先述の「同じセクターで競合する健全な企業にとって有害な効果を及ぼす」という点だと思う。
日本企業は差別化より横並びが好きで、結果、安売りが大好きだ。
そんな中でゾンビ企業が温存されれば、過当競争が永遠に続く。
生身の人間がゾンビと殴り合いのけんかを続けるようなもの。
まさに、ゾンビ企業温存はデフレ政策なのだ。

日本の金融緩和はリフレとして行われている。
しかし、それが一方でデフレの要因となっている。
日本の金利が1990年以降、多少の山谷こそあれ、下げ止まっていることを見れば、事態は深刻だ。
日本は実際のところゾンビ企業を30年以上にわたって温存しているのではないか。
CNBCのロジックを借りれば、仮に金融緩和がゾンビ企業を温存してきたとすれば、それこそが低成長の元凶ということになる。

ビデオでは、米国について最近の変化が状況をさらに難しくしていると紹介している。

仮に経済が大幅に弱くなっても、政府には制約がある。
かつてのように借金して救済することはできない。


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