海外経済 政治

ゾンビがそこら中を走り回っている:ポール・クルーグマン
2020年2月6日

ポール・クルーグマン教授が、現状の金融・財政政策について語っている。


今ゾンビがそこら中を走り回っている。

クルーグマン教授がBloombergで語った。
教授が「ゾンビ」と呼ぶのは、何度も明らかな誤りと烙印を押された奇説が再び蘇り支持を集めることのようだ。
「ゾンビの考え」が「生きながらえ人々の脳を貪り食っている」という。
その1つの例として、減税すれば税収が増えるとするラッファー曲線を挙げている。

最近ロバート・シラー教授も、ラッファー曲線のナラティブが思い出したようにエピデミック感染を起こすと指摘していた。
シラー教授は同曲線を「ラファブル曲線」と揶揄していた。
ちなみに、提唱者のアート・ラッファーは昨年5月トランプ大統領から大統領自由勲章を受けている。

その他、クルーグマン教授の興味深い発言。
非常に的を射た発言が多く、時間・状況の変化とともに教授の考えが進化していると感じられる。
一方、解決策を提示できないという点で物足りなさを感じるかもしれない。

債務について恐ろしく過大な心配がなされている。

ハト派ケインジアンらしく、低金利下での財政拡大に前向きなスタンスは変わらない。
2010年を例に挙げ、失業率が高い中で緊縮財政が求められたのは誤りと指摘。
一方で、失業率が低い中でトランプ大統領が180度方向転換し「財政赤字パーティーを楽しんでいる」ことにも呆れている。
(教授のスタンスは、反共和党という点で完全に一貫している。)

(失業率とインフレに)相関がなくなったと解釈する人がいるが、それは正しくない。

現状インフレがなかなか進まない理由は、失業率とインフレの関係が切れたのではなく、完全雇用のあり場所が変わったためと解釈している。
これまで考えられてきたよりはるかに低い失業率に完全雇用のありかが移ったという。
この点でFRBは誤解し、たるみがあるのにたるみがないと考えてしまったという。

FRBがもっと経済を推進できたかどうか私にはわからない。
私はQEには懐疑的だ。
QEが有害とは思わないが、とても強力なツールとも思わない。

クルーグマン教授は、FRBが金融政策で失敗したとは見ていない。
多少の引き締めすぎがあったとしたが、害は大きくなかったという。
「自身の分析を再検討すべき」と注文を付けたものの、実際の政策で大きな失敗があったとは考えていないという。
そして、量的緩和政策についてはあまり効果を信じていないようだ。

実際の問題は、これほどの低金利でも完全雇用を実現するのにかろうじて足りるかどうかという点だ。

クルーグマン教授によれば(禅問答のようだが)低金利が問題となるのは、低金利が不適切と考えられる場合のみだという。
不適切と考えられなければ、それは問題ではないという。
(当たり前の話であり、低金利の欠点にほとんど気を配れないところに教授の限界があるのかもしれない。)
低金利自体が問題ではないといいたいのだろう。
世界に行き場を失った貯蓄で溢れかえっているために低金利が求められていると現状認識のみを述べている。

(金利上昇は)事態をむしろ悪化させる。
インフレをさらに低下させるべきでない。
次の景気後退期に実質金利が下がらない、悪い議論になってしまう。

このロジックは心にとめておいても良いかもしれない。
世の中では景気後退期のために金融緩和余地を設ける方法について2つ語られることがある。

  • 実質金利を下げるためにインフレを高めておく必要があり、今は金融緩和を続けるべき。
    (クルーグマン教授の意見もこちら。)
  • 景気後退期に名目金利の下げ余地を作るために、比較的景気の良い今は金融を引き締めておくべき。
    (インフレが低下してしまうと実質金利は上がってしまうが、それでも将来の名目での利下げ余地は増える。)

政策金利に対してある程度リニアにインフレが反応するなら、いずれの方法でも将来の利下げ余地はたいして変わらないはずだ。
クルーグマン教授が前者を主張する理由は明らか。
インフレが下がりやすく上がりにくいと考えているからだ。
ハト派経済学者はまだデフレの恐怖から逃れられていないのであり、おそらく米国の場合(インフレ上昇の可能性が残っているという意味で)正しいのだろう。
ただし、この前提は突然変わりうる。
政策金利に対するインフレの反応がリニアになる(いつでも利下げでインフレを誘導できる)状態に戻れば、もはや利上げを渋る理由はなくなるだろう。
それが趨勢的停滞を脱するケースなら喜んでみな利上げを受け入れるだろうし、スタグフレーションに近いケースなら中央銀行は追い込まれることになる。

住宅バブルのようなことがあれば、FRBは弾けさせるべきだろう。
あるいはそれも少し難しいかもしれない。

非常に率直な学者としての意見のように聞こえる。
社会における結果に責任を持とうという意識が希薄であるように思えるのが残念だ。

(コロナウィルスについての)心配の1つは、もしもこれが大きなネガティブなショックだった時、そうであるかはわからないが、私たちにはたいした(金融政策の)手段が残っていない点だ。
・・・だから、これはひどくなりうる。

金融政策に余地がほとんどないという強い認識が伺われる。
その一方で、解決策の提示には至らないのが不気味だ。

ベン・バーナンキはまだQEに大きな効果が望めると考えているようだが、私は懐疑的だ。
そういう事態になればもちろん試すべきだとは思う。
でも、FF金利に下げの余地は少なく、他の政策に大きな効果があるかどうかはまだ未解決の疑問だ。


-海外経済, 政治
-,

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 本文中に《》で囲んだ部分がありますが、これは引用ではなく強調のためのものです。 その他利用規約をご覧ください。