ゼロ金利・デフレの本当の原因:スタンリー・ドラッケンミラー

スタンリー・ドラッケンミラー氏が、だらだらと続いた金融緩和政策に痛烈な批判を展開している。
リフレ政策はグローバル・スタンダードという言い方が適切でないことを痛感する辛辣さだ。


私はボルカー、グリーンスパン両議長の時代に育った。
この時代、金融政策は主に景気循環に逆行するように用いられていた。
一定期間後経済が過熱を始めるとブレーキを踏み、軟化し悪化するとそうならないようにする。

ドラッケンミラー氏がCNBCで、イエレン時代までのFRBの政策フレームを批判した。
かつて金融政策は経済安定化策であった。
景気循環の振幅が過度に大きくならないようにするためのものだった。
谷では押し上げ、山では元に戻す営みだった。

ところが、近年のFRBの政策は景気も株価もいっさい谷を許さないようなやり方だ。
これが顕著になったのはドットコム・バブルの崩壊後だろう。
明らかに愚かなバブルが崩壊した後、FRBは迅速な金融緩和で対処し、すぐさま次に不動産バブルを生み出してしまった。
現在が趨勢的な停滞であるとの言い訳から、近年再び長く金融緩和が続けられてきた。
趨勢からの脱出だから山のように見えてもブレーキは要らないという理屈になる。

ドラッケンミラー氏は、当局や市場が本質を見誤っているという。

「今では小数点付きの物価目標がある。
1.65%でなく1.432%だとハルマゲドンがやってきたような騒ぎだ。
・・・物価目標が達成できないとハルマゲドンになるといった感じだ。
私はこの精緻さ、注目度に困惑している。」

ドラッケンミラー氏は、インフレの小数点以下を気にする前にもっと重要な変化に注目すべきと考えているのだ。
同氏は、現在が産業革命以来の生産性の変曲点にあると考えており、その様子が実質GDPに反映されていないと指摘する。
その理由は無償・低価で提供されるITサービスにある。

とてもたくさんのタダの製品が存在し、それがGDPに算入されていない。
いくつか例を挙げると、MITの研究によれば、平均的なアメリカ人は本来なら年18,000ドル払うはずだったGoogle検索エンジンの恩恵を受けているという。

ドラッケンミラー氏はこの他に写真現像や百科事典にも言及した。
現代人は新たなサービスの恩恵を受け、その質はしばしば過去のものより目覚ましく改善しているが、それがGDP統計には反映されないという。

同様の問題提起は日本でもすでになされている。
渡辺努教授早川英男氏らは、「価格ゼロ経済」を適切に把握する努力が必要と主張している。
この問題の影響はGDPのみにとどまらない。

ドラッケンミラー氏は、こうした影響が物価上昇率にも影響すると指摘している。
グーグル検索には大きな恩恵があるのに、それが物価のバスケットには含まれないからだ。
(正確には、効用と比べて極めて少額であるグーグルの広告費がバスケットに入っている。)

これが正しく計測されていれば、米国はすでにデフレになっている。
ところで、これはいいことなんだ。
デフレには良いデフレと悪いデフレがある。
だから、いつでも2%物価目標を掲げることには反対だ。
1800年代終わり、産業革命では3%のデフレだったが、8%の実質成長だった。


「いつでも」という言葉に表れているように、ドラッケンミラー氏は良いインフレの必要性も理解している。
しかし、現状が生産性ショックの真っただ中であるためにインフレが正確に計算できていないとすれば、そこで小数点以下のインフレに右往左往することがどれだけ本質的なものかを知っておくべきと考えているのだ。
実際、ドラッケンミラー氏は、パウエル議長については「困難な仕事を引き継いだ」と同情している。
同氏が問題とするのはイエレン議長の政策だ。

「景気が良くなり、サイクルのかなり早い時期に・・・
あの頃私は、金利が正常化するまでFRBがチャンスの度にこっそり動くべきと言ったんだ。
・・・
2016年、私から言わせれば、3.5-4.0%まで戻せたはずだ。
誰もわからないことだが、少なくとも試せたはずだ。」

ドラッケンミラー氏が思い描く金融政策とは経済安定化政策であり、サイクルの振幅を抑える政策だ。
だから、景気が回復してくれば早期にブレーキに足を置き始めるべきとの考えになる。
イエレン議長が選んだのは2015年末に0.25%、2016年末に0.25%、2017年計0.75%というゆっくりとした利上げだった。

ドラッケンミラー氏のいうように2016年に3.5-4.0%まで利上げしていれば、市場は混乱しただろう。
それがわからない同氏ではない。
では、それでもなぜこう言うのか。

資本主義システムには投資のハードル・レートが必要であると私は深く深く信じている。
その水準がどこか3-4%のところにないと、みんなおかしくなってしまう。
投資家がおかしくなり、企業がおかしくなり、ゾンビ企業が生き残ることになる。

ドラッケンミラー氏は、2016年がチャンスだったと残念がった。
同氏は、FRBが景気減速を恐れるあまり、経済を次の景気後退に対して極めて脆弱にしてしまったと指摘した。

ドラッケンミラー氏は、(生産性ショック以外の)デフレや低金利について、その元凶が金融政策の側にあると主張する。
米国における最近のデフレ発生にははっきりとした原因が見て取れるからだ。

何で金利がゼロ近傍になったのかと言えば、FRBがゼロ近傍に誘導したからだ。
米国には一度も私が見いだせるようなデフレはなかった。
それが始まったのはゼロ金利政策が始まった時からだ。
資産バブルが起こるたびに毎回デフレになった。・・・
私がデフレを生み出そうとしたとすれば、FRBが2012年から数年前までにやったのとそっくり同じことをしていただろう。

世の中では、デフレに対してはリフレがグローバル・スタンダードということになっているし、その理屈にはもっともなところも多い。
しかし、これは象牙の塔に近い世界の話であることも忘れてはいけない。
先頭に立つ人たちは、予想が外れて実績が上がらなくても歳費・給与はもちろん、ボーナスさえたいして減らない人たちかもしれない。

かつてジョージ・ソロスの財産を何倍にも増やしたドラッケンミラー氏は、世界屈指のマクロ・ファンド運用者だ。
誰よりも鋭く経済・市場を予想し、実績を挙げてきた。
少し外せばとてつもない金額、しかも自分のお金をすってしまう中で、その仕事を続けている。
当局の政策が間違っていると信じ、憤りさえ感じていても、感傷的にならず、信条と投資を別モノとして扱ってきたのだろう。
そういう人が、緩和ばかりの金融政策は間違いだと言っている。
これが正しい保証はないが、少なくともさまざまな可能性がありうることを私たちは知っておくべきだ。


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