ゼロ取引コストのニュー・ノーマル:ジェレミー・シーゲル

ロバート・シラー教授とジェレミー・シーゲル教授がウォートン校で講演を行った。
ここでは、シーゲル教授による米国株市場の長期リターン予想を紹介しよう。


株式益回りは長期リターンを予想する上でのとてもいい予想値だ。
過去140年間の長期のPERは15倍。
これは1/6.7%にあたる。

シーゲル教授が自校での講演で、株式益回りを用いた長期リターンの相場観について話している。
益回りとは1株あたり利益(EPS)を株価で除した商だ。
これはPERの逆数にあたる。
このため、PERが15倍なら益回りは6.7%となり、長期リターンと同水準になるというイメージだ。

さて、長期平均はそうだとして、足元はどうなっているのか。

「株式は今年の利益の18倍で売買されており、今年の利益はかなり堅い。
だから、実績に対して18倍となる年末までは、市場はそう大きくは上げないだろう。」

《永遠のブル》の異名をとるシーゲル教授にしても、米国株市場のさらなる上げはなかなか見通しにくいようだ。
ただ、上値が重いと見るのは市場のコンセンサスでもあるのだろう。
興味深いのはそこではなく、シーゲル教授の長期予想だ。

1/18は5.5%だ。
だから、今の株式市場が予想しているリターンはどれくらいかと尋ねられたら、実質で5.5%だと答えるだろう。
今は1%ポイントほど長期的水準より低くなっている。
名目リターンについては、インフレを2%とすれば7.5%だ。

PERから益回りを計算し、それを長期リターン予想としているわけだ。
シーゲル教授は今後3-5年間のEPS成長率をウォール街より保守的な3.5%と予想しているといい、その内訳を話した。
・EPS成長 3.5%
 うち自社株買い 2.5%
 うち有機的成長 1%
・配当 2%

シーゲル教授はさらに5.5%を別の断面で分解し、興味深い解釈を与えている。
ドルのリスクフリー金利(米10年債で代用)が3%弱であるため、株式リスク・プレミアムが約4.5%になっていると計算。
これを長期平均3.0-3.5%と比べてこう指摘する。

「株式は長期的に見れば割高だが、債券は長期的に見てとびぬけて割高になっている。
だから、株式の債券との比較における相対バリュエーションは、歴史上最高とは言わないまでも、とても有利になっている。」


こうした指摘は決してシーゲル教授だけのものではない。
グリーンスパン元FRB議長も以前からバブルなのは債券市場と指摘している。
債券、とくに国債がバブル状態になるのは厄介だ。
他の資産クラスの理論価格を計算する上での割引率は長期国債利回りに連動する。
国債のバブルは長期国債利回り、そして割引率を過小にする。
結果、高いリスク資産を正当化するように働いてしまう。
ピーター・シフ氏などは、金融緩和が資産価格を押し上げた現在を「全部バブル」と警告している。

実質長期リターンは確かに投資家が知りたいことだろう。
しかし、そうした長期的視点とともに、投資家は短期的な関心事も持っているはずだ。
それは
《18倍のPERが過去平均へ向かって中央回帰するのか》
であり、言い換えれば
《5.5倍の長期リターンが6.7%に戻っていくのか》
であろう。

私の答えはNoだ。
PERは過去より高くなるだろう。
その一因は、インデックス投資のコストがゼロになったことと考えている。

シーゲル教授は果敢にも《This time is different.》と主張しているのだ。
その根拠は、過去のノーマルだった6.7%という数字のベースが今とは異なっていたという主張だ。

「本当に19世紀や20世紀初頭に投資家は6.7%のリターンを得ていたのか。
そうではあるまい。
おそらくよくて実質5%だったのではないか。
実質5%はPERだと20倍、5.5%なら18倍だ。」

現在では一般の投資家までコストの極めて安いインデックス投資が可能となった。
完全に分散され効率的なポートフォリオを極めて低コストで手に入れることができる。
コストが下がった分だけ、投資家は株式リターンの低下を許容し、買いあがるのではないか。
言い換えれば、取引コスト調整後の長期リターンはかつてと変わっていない、とシーゲル教授は言いたいのだろう。

だから、過去よりも高いPERの均衡水準にあると考えている。
・・・
これは『ゼロ取引コストのニュー・ノーマル』とでも呼べるだろう。


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