国内経済 政治

スティグリッツ:日本は債務を永久債と交換しろ
2016年9月30日

ジョセフ・スティグリッツ教授が、日本のとるべき経済プランを提案した。
日本はヘリコプター・マネーを含む債務リストラを行うか、国債が国内消化だから大丈夫と信じ込むか二者択一だと指摘した。


経済政策の目的は経済成長ではない

スティグリッツ教授は、常に経済の本質的な目的を忘れることがない。
World Economic Forumへの寄稿で

「経済成長はそれ自体が目的ではない。
私たちは生活水準を重視すべきだ。」

と書いている。
高齢化する先進国の実態を見るには、GDPの成長率を見てもだめという主張だ。
教授は、2008年以降の労働者1人あたりGDPの成長率で見れば、日本は欧米より優れていると指摘する。
それでも、日本は供給と需要の両面、実体経済と金融経済の両面に問題を抱えているという。
これまでの政策は失敗であり、代わりに実行すべき政策を提言している。

スティグリッツ教授は、まず「グリーン・ファイナンス」をともなう大規模な炭素税を提案する。
これが巨額の投資を生み、デフレを終わらせ、財政再建にも寄与すると言う。
あまりにもバラ色の話が語られているのだが、注目すべきはこの部分ではない。
注目すべきは、日本の財政問題への処方箋2法である。

方法1)債務リストラ

「日本政府が債務の一部を低利子の永久債と交換する。
これにより、その部分の債務リスクを完全に切り離すことができる。」

意味のある金額について、「低利」の永久債と既存債務を交換する債権者が本当にいるのかとの疑問が湧く。
この問題の難しい点は、教授の言うように日本の経済・財政が健全化すれば、時期は別として金利が上昇する点だ。
その時、「低利」永久債は激しい減価を迎える。
例えば、永久債の利回りを1%で債権者と合意できたとして、その後、実勢金利が3%となれば、永久債の時価は1/3に下がる。
3%という想定は潜在成長率1%、インフレ率2%というイメージの話である。
ほとんどの投資家が奮えあがるリスクだ。
こうした危惧に対し、スティグリッツ教授は一応の答を用意している。

「(この交換が)インフレを引き起こすと心配する人がいるだろう。
しかし、日本の倒錯した経済では、インフレこそまさに必要なのだ。
私は、金利が突然上昇するという心配はあまりにも大げさだと思う。
しかし、念には念を入れて、過剰なインフレ圧力が発現するまで、政府は債務を毎年5%ずつ交換していけばよい。」

こうした策は確かにある程度有効かもしれない。
しかし、やはりリスクは大きく、たとえGPIFでも大きな額の交換には応じないはずだ。

方法1a)ヘリコプター・マネーも選択肢

結局は、大きく交換に応じるのは日銀だけだろう。
つまりは、ヘリコプター・マネーである。
スティグリッツ教授も、この可能性を意識している。

「代わりに、政府は金利のないお金と債務を交換してもいい。
長く恐れられてきた政府債務のマネタイゼーションだ。
マネタリー・ファイナンスが有利子永久債との債務交換よりインフレを引き起こす可能性が高いとしても、それは悪材料ではない。
よりゆっくりやれという話にすぎない。」

方法2)国内消化だから大丈夫と信じ込む

スティグリッツ教授の2つ目の提案は、債務対GDP比率で考えるなというものだ。
政府の借金の多くが日本人によって保有されているのだからリスクは小さいといういつもの議論である。
この点に一理あるのは認めるが、容易に選択することもできない。

そもそも日本の債務が増えたのは、税収と比べて過大な恩恵を国民に与えてきたことによる。
結果、政府の債務と国民の資産は増えた。
つまり、税収と歳出の線引きを変えれば財政は改善するのだが、日本はそれが下手だ。
スティグリッツ教授が認めるほど実は国が豊かなのに、高々1回限りの2%の消費増税さえ実施できない。
増税の先は長いはずなのに、毎年2%のインフレを目標にしているはずなのに、1回限りの2%ができない。
社会保障改革もほぼ手つかずだ。
こうした国では、政府と国民は同じ国の主体とは考えない方がいい。
政府はギリシャ政府、国民はドイツ人とでも考えればいい。

それなのに、スティグリッツ教授は、需要不足への対策として消費減税・投資減税を挙げている。
財政再建を放置するという方法論は日本がすでに25年間続けているやり方だ。
それが成功したというなら、そろそろやめればいい。
スティグリッツ教授の言うようにそれが失敗したというなら、それは選択肢ではあるまい。
少なくとも、《今回は違う》という論拠を示すべきだろう。

方法2でうまくいかないという確証はない。
しかし、この方法は大きなリスクがあるのにとりあえず何もしないというに等しい。
結局、有効性から言えば、方法1か1aということになるのだろうか。

安倍首相のTPP重視は見当違い

スティグリッツ教授は、攻めるべき産業セクターについても提案している。
技術開発分野のサービスだといい、例として医療分野の診断装置を挙げている。
炭素税と同じように内容において具体性がなく、民間から見れば総花的な絵空事の域を出ない。
こうした観点について、学者に期待するのは誤りだろう。
しかし、たとえ陳腐であっても、教授が産業セクターを例示したのにはわけがある。

教授は安倍首相のTPPに傾注する政策を痛烈に批判する。

「実際、農業がGDPに占める割合は極めて小さく、GDPに与える影響はわずかだ。
にもかかわらず、そうした改革が望まれ、日本の若者が独創性を発揮する場とされている。」

自民党の農政の欺瞞を喝破しているのだ。
農業を自由化するために、農業に進化を促すというお題目が使われる。
それは正論のように響くし、農家を説得する材料にはなるかもしれない。
それに対し、スティグリッツ教授は、効果のマグニチュードと比較優位を考えろと示唆している。
農業は本当に新たに若い労働力を呼び込むべき産業なのか、冷静に考えるべきといっている。

世界経済のパイを大きくしろ

最後にスティグリッツ教授は日本の経済政策の本質的な問題点に触れる。
日本の経済政策は他国から需要を奪ってくることに傾注しがちだ。
そのために円安を誘導し、安売りをしようとする。
全体のパイを所与のものとし、安売りで取り分を大きくしようとするのだ。
しかし、教授の考えは真逆だ。

「(日本の)生活水準を向上させる政策とは、日本以外の世界経済の需要・成長を刺激する政策である。」


-国内経済, 政治
-,

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 本文中に《》で囲んだ部分がありますが、これは引用ではなく強調のためのものです。 その他利用規約をご覧ください。