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ジェレミー・シーゲル教授は話したい相手と話せない

ジェレミー・シーゲル教授が米国債の投資妙味について尋ねられているが、議論の噛み合わなさが面白い。


「2%の物価連動債利回りは資産形成のため投資すべき先だろうか。
年2%はいい。
この数十年で最高だ。」

ジェレミー・シーゲル教授がCNBCで、久しぶりに高い水準にある米国債利回りについて問いかけている。
インフレがヘッジされた物価連動債の10年もの利回りは2%まで上昇してきた。

10年の米物価連動債利回り(青)と10年債利回り(赤)
10年の米物価連動債利回り(青)と10年債利回り(赤)

米国債利回りは10年が4.3%、2年が5.0%と、足元のインフレや期待インフレと比べて遜色のないリターン水準になってきた。
一方で、株式市場には下落の可能性がつきもの。
ダウンサイド・リスクを見る人は、一時債券に退避しようかという発想になる。

そうした考えにシーゲル教授は否定的だ。

しかし、インフレ調整後の年2%はお金を倍に増やすのに36年かかる。
PER 20倍は・・・株式益回り5%に相当し、一般的なS&P 500に投資してお金が倍になるのに14年ですむ。
債券でお金を倍にする間に、株式は5倍になる。
みんな債券は株式と同じぐらい魅力的になったというが、長期の資産形成から言えば全然そうじゃない。

シーゲル教授の有名な著書『株式投資』の原題は『Stocks for the Long Run』(長期投資のための株式)だ。
そもそも教授には短期的なマーケット・タイミングという考えはない。
株が高かろうが安かろうが、数十年持ち続けるなら今すぐに買って大きな問題ではない、と考えている節がある。
長期投資をすれば、株式リスクプレミアムの分、債券より多いリターンを得られるはずだからだ。

2年なら債券で幸せだろうが、10年、20年超では幸せではないだろう。

決して短めの債券にダメを出しているのではない。
あくまで教授の興味は長期投資にあるのだ。

今週のジャクソンホールでのシンポジウムについては、シーゲル教授は従前どおり無風を予想した。
わずかにタカ派のメッセージを出す可能性はあるが、基本的にはデータ次第のスタンスを続けるだろうという。
これ以上の利上げは不要との考えについてもシーゲル教授は変えていない。
市場金利がFF金利引き上げなしに引き締め方向に動いている、イールドカーブ長短逆転も解消中、ブレークイーブンインフレ率は2.3%まで低下したなど、状況の改善が見られるという。

それにしても、CNBCキャスターとの噛み合わなさが面白い。
キャスターは債券の妙味を尋ねた。
2年という年限からして、興味の対象はマーケット・タイミングにあった。
しかし、シーゲル教授の頭には、マーケット・タイミングはない。
結論は最初から決まっていたのだ。

1つ皮肉なことがある。
シーゲル教授は、人生のほとんどを長期投資家の啓蒙に費やしてきた。
教授のメッセージは基本的にはシンプルで、株を買ってそのまま持ち続けろというもの。
しかし、教授のファンの多く、おそらく大半は、長期投資家でも、投資家でもなく、投機家やトレーダーなのだ。
CNBCでシーゲル教授の出演を見る人たちは、マーケット・タイミングの指針を得たくて視聴している。
勇気がもらいたくて永遠のブルの言葉に耳を傾ける。
そんな噛み合わなさを感じさせた番組だった。


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