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ショック次第で危機は待ったなし:スティーブン・ローチ
2019年12月26日

元モルガン・スタンレー・アジア会長スティーブン・ローチ氏が、ひどく暗い2020年を予想している。


「それが金融危機であれ経済危機であれ、次の危機を予想するのは愚か者のゲームだ。
いずれの危機でも、起こることを正しく警告したヒーローが存在する。
・・・しかし、現代の予想の記録は警句を含んでいる:
ある危機を正しく予想した者はめったに再び正しく危機を予想しない。」

ローチ氏がProject Syndicateで、危機の予想が至難の業であり、それを目指すことが虚しいことだと諭している。
あるいは、これから述べることの言い訳をしているのかもしれない。
経済学をもってしても危機を言い当てることはできず、経済学のやれる最善のことは脆弱性を評価することだという。

ローチ氏によれば、危機とは「高い脆弱性に大きなショック」が襲う時に起こるものだという。
では、次の危機の元となる脆弱性とは何だろうか。
ローチ氏は3つの脆弱性を挙げる。
1つ目は金融政策だ。

私が最も心配する脆弱性の源泉は過度に伸び切った中央銀行のバランスシートだ。

ローチ氏は各国中央銀行の量的緩和政策の結果進んだバランスシート拡大を心配し、理由を3つ挙げている。

  • 中央銀行のバランスシートが大きく拡大している。
  • 中央銀行のバランスシート拡大が主に実験的政策の失敗の結果である。
    危機直後の危機対応には成功したが、その後の経済回復を十分に後押ししたとは言えないという。
    「日米欧のGDP合計は2008年から2018年の間に5.3兆ドル増えたが、同期間の中央銀行のバランスシート拡大の合計である10兆ドルの半分にすぎない。
    残りの4.7兆ドルは計算上莫大な流動性注入にあたり、それが危機後の期間のほとんどで資産市場を押し上げた。」
  • 中央銀行が「再びバランスシート拡大への賭け金を増やそう」としている。

もっとも、現状の非伝統的金融政策をただただ肯定する人からすれば、このどこが問題なのかという話かもしれない。
この点について、ローチ氏は金融不安定を問題視している。

ローチ氏が問題視する2つ目の脆弱性は金融資産の価格である。

結局、低インフレの世界では、インフレ・ターゲティングを採用する中央銀行は、それが伝統的政策(ゼロ金利近傍の政策金利)であろうが、非伝統的政策(バランスシート拡大)であろうが、異常な金融緩和の側に偏り続けることの恐れがないように見えるからだ。
1つの問題は物価安定の使命自体であり、この金融政策のよりどころは長く続いてきたが今は不適切になっている。
この使命は、慢性的に目的に満たないインフレと金融安定のリスク増大からひどくずれている。

FRBの2つの使命は雇用と物価だ。
もともと、この2つの変数はトレードオフの関係にあったから、安定的な解が存在した。
雇用を刺激しすぎると物価が上昇するため、金融緩和にブレーキがかかる。
物価上昇を抑制しすぎると雇用が悪化するため、金融引き締めにブレーキがかかる。
ところが、このトレードオフが働かない経済になっている。

構造的な変化から、世界経済にはディスインフレの圧力がかかっていた。
そこに、金融不安定がもたらした危機が(2度にわたり)起こり、デフレの恐怖が人々を襲った。
危機対応として非伝統的政策が採られたのはやむを得ないとしても、それが長く継続されたことで再び金融不安定が発生する恐れが高まっている。
デフレの恐怖を払拭するために、デフレの恐怖を生み出そうとしている。

ローチ氏は、株式市場のリスクが下方に偏っていると指摘する。

経済と企業収益成長の大きな再加速、またはFRBが新たなラウンドのバランスシート拡大を行わなければ、米国株市場の急上昇は考えにくい。
逆に、新たな固有のショック、または予想外のインフレ再加速と関係する金利上昇は、割高な米国株市場の急激な調整の可能性を高めるだろう。

ローチ氏が問題視する3つ目の脆弱性は「失速速度に近づきつつある弱い実体経済」だ。
この問題は、伸び切った金融政策によってさらに深刻化しうる。

「主要先進国経済は割高な金融市場に浮かれ、今も失敗した金融政策の戦略に依存するだけでなく、成長のクッションが必要な時にそれを持たないのだ。」

こうした脆弱性に対し、ローチ氏は「3つのP」が解決を阻んでいるという:
保護主義(protectionism)、ポピュリズム(populism)、政治の機能不全(political dysfunction)である。
したがって、同氏の将来予想はひどく暗いものになる。

きっかけは他のところかもしれないし、何もショックが起こらない可能性もかなりある。
しかし、真剣に脆弱性を検証する必要がある。
特に、次の3つの観点から検証できる: 実体経済、金融資産の価格、誤った金融政策。
この3つのミックスにショックが加われば、2020年に危機がすぐやってくるだろう。


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