ウォートンの魔術師ジェレミー・シーゲル教授が、コロナ・ショック後の経済・市場回復のイメージを語っている。
航空会社は営業しているが、通常の利用客の10%しか利用していない。
つまり、営業しているかの問題ではなく、(顧客が)自信が持てるかの問題なんだ。
自信を生み出すのは治療薬またはワクチン、そして症例の減少だ。
シーゲル教授がウィズダムツリーのポッドキャストで、経済の再始動に必要な要素を明示した。
教授は今年の年末、おそらく秋までには強力な治療薬の用意ができると予感しているという。
そうなれば、人々は徐々に自信を取り戻すだろうという。
「みんな1918年(スペイン風邪)と比べるが、1918年以降の医学の進歩は目覚ましい。
1918年にはペニシリンもなかったんだ。」
シーゲル教授は、悲観に傾いた識者の予想に反論している。
ワクチン開発には1年かかるかもしれないが、対症療法も改善されていき、重症化を防げるようになると期待する。
年末までに人々が自信を取り戻せば、来年は活動を再開する。
教授はそこで、銀行預金に滞留していた莫大な流動性が流通を始めると予想する。
それが20-30年なかったようなインフレをもたらす。
8-10%(のインフレ)というのではなく、3、4、5%のインフレと金利上昇だ。
金利上昇を予想するが、急騰を予想するわけではない。
インフレまで考慮すれば、その後の投資はどうなるか。
- 株式: 株式市場は先を読む。
「市場価格の90%超は、今年の利益、2021年第1四半期の利益によるものでなく、来年の第2-3四半期以降の利益によるものだ。
そのころまでには、経済ははるかに正常化しているだろう。」 - フィクスト・インカム: 長期債がもっとも脆弱に。
- 実物資産: 良いパフォーマンス。
また、株式については、インフレを意識していくつか興味深い点を指摘している。
レバレッジのかかった株式はパフォーマンスが良くなり、レバレッジがかかっていなくても価格決定力を有する株式はパフォーマンスが良くなる。
マイルド・インフレの時代、概して借金は有利だ。
(しかも、各国で金融抑圧が続いている。)
企業のレバレッジは株価パフォーマンスを向上させる。
また、実体経済で価格決定力を有する企業は、インフレを売価に転嫁することができ、利ザヤを確保することができる。
配当はインフレとともに増加し、実質ベースでの成長さえ必要ない。
シーゲル教授は、マイルド・インフレの時代、高配当株のパフォーマンスが良くなると指摘する。
インカム・ゲインを得たい投資家、しかもインフレから身を守りたい投資家は、インフレとともに増加が期待できる配当というインカム・ゲインに目をつけるからだ。
これに対して、通常の債券から得られるインカム・ゲインはインフレに弱い。
それをフィクスト・インカムでやろうとすれば、物価連動債を買うことになるが、もちろんこれはマイナス利回りになっている。
この先フィクスト・インカムでインフレ分を取り戻すことはできない。
投資家がフィクスト・インカムから株式へ追いやられるような時代になったようだ。
シーゲル教授は、コロナ・ショックからの脱出が第1次大戦直後に似てくるだろうと話す。
(先週は第2次大戦直後と言っていた。)
「当時は債務が積み上がり、大量の流動性、抑制された需要があった。
戦時の配給でものが買えなかった。
それが終わると支出ブームが起こった。
株式もその恩恵を受けた。
わたしはそうしたことをこの先予想している。」
インフレから為替の話に広がると、シーゲル教授は、ハイパーインフレのようなものではないとしながら、各国通貨が価値を下げ、購買力を低下させていくと予想している。
そして、インフレ・通貨安からの脱出プロセスで起こる不均衡にも触れている。
すべての国がやっているから、1か国の通貨がどうなるかの議論に必ずしもならない。
最初にインフレを止めるために引き締めに動く国(の通貨)が上昇するだろう。
しかし、現時点では、経済にショックが加わっており、どの中央銀行もそうするムードにはない。
すべての通貨がダメだから、ダメな通貨が大きく売られていない。
売りたくても、反対通貨の選択肢がないのだ。
似たようなことは以前マーク・ファーバー氏も言っていた。
皮肉にも、何か規律ある信頼できる通貨が現れた時、それ以外の通貨の減価が顕在化するということになる。