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シェア・オフィスが経済停滞を深刻に:エリック・ローゼングレン
2019年9月25日

米ボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁が、とても興味深い構造問題について話している。
革新的な事業モデルが次の景気後退期、経済の問題を深刻化させかねないというのだ。


総じて言うなら、現在はサイクルの中で、停滞期の金融安定に変化を及ぼしうる構造・状況について考えるべき重要な時期だ。

ローゼングレン総裁が20日ニューヨーク大学での講演で語った。
総裁はタカ派として知られ、18日のFOMCでも利下げに反対票を投じたと目されている。
総裁によれば、FRB金融政策は緩和的領域にあり、米経済は心配事もあるものの良好だ。
これ以上の金融緩和はコストとリスクをもたらしかねないと総裁は主張する。
それが予期せぬところで膨張し始めているのだという。
予期せぬところとは、シェア・オフィス市場だ。

「進化する市場モデルが低金利とともに商業用不動産に新たなタイプの、潜在的に金融安定にかかわるリスクを生み出しつつある。
そうした市場モデルの1つが、都市部のオフィス市場におけるコワーキング・スペースの発展だ。」

シェア・オフィスとは、ビル1棟・1フロア・1区画をテナント1社に賃貸するのでなく、より細かな部屋に分けたり共通スペースを複数社で共用したりするオフィスの形態。
賃料の高い都市部を中心に普及が進んでいる。
貸し手から見れば(稼働率さえ上がれば)賃料総額が増えることが多い。
借り手から見れば、小企業や出張所など少人数のオフィスを持ちやすいなどのメリットがある。

シェア・オフィスが増えた背景には、長く続く低金利があるとローゼングレン総裁は示唆する。
不動産所有者と借り手の双方のニーズをよくとらえた事業モデルのように見えるが、総裁は2つの問題点を指摘する。

契約のミスマッチ
「コワーキング企業は不動産所有者と長期のリース契約に入り、短期で小企業や成熟していない企業に転リースする傾向がある。
(借り手の)経済セグメントは、経済停滞期の影響を特に受けやすい傾向にあり、過去よりも急速にオフィスの空室が増える可能性がある。
停滞期、コワーキング企業はテナント収入の喪失に見舞われ、企業にリスクを及ぼし、ビル所有者への支払いができなければ所有者にもリスクを及ぼす。」

倒産隔離
「心配の2つ目の理由は、企業の中にリースのために倒産隔離の特別目的主体(SPE)を利用しているところがある点だ。
この構造では、不動産所有者が最終的な親会社であるコワーキング企業への求償権を持たず、景気後退期にコワーキング企業が不採算のリース契約から逃れることができる。」
コワーキング企業が子会社を作り、そこでリース/転リースを行えば(保証を入れない限り)コワーキング企業は有限責任を負うだけですむ。
物件の採算が悪くなれば、子会社を倒産させればいい。

ローゼングレン総裁は、シェア・オフィスの影響により次の停滞期、商業用不動産の損失が大きくなると予想する。
また、このモデルが広く浸透している都市において、関連貸出のデフォルト率・デフォルト時損失率が上昇しかねないと警戒している。

シェア・オフィスと言えば今月、米大手WeWorkがIPOを延期するというニュースがあった。
これは経営者・ガバナンス・評価額の問題が大きく、本件とは関係ないと思われる。
ただし、IPOがクレジット・ラインの条件となっているようだから、油断は禁物だ。
株価・資金繰りあたりの問題は、今回の話とどこか遠くでつながった話かもしれない。

こうしたスキームは米国のシェア・オフィス市場だけの問題ではあるまい。
投資家がスルガ銀行からの借入でシェア・ハウスを設け、運営会社にリースした件などがよく似ている。
運営会社は不動産所有者に家賃保証していた。
つまり、運営会社と不動産所有者は比較的長めの契約をし、それを個人に貸していたのだ。
この事件では、そもそも運営会社の入居見込みが大甘だった、銀行側で不正融資が常態化していたという問題外の事情があった。
同一視はすべきでないが、景気が悪化すれば入居率も悪化するのが不動産賃貸市場の常だ。
また、同一視すべきなのは、景気が比較的良い中で低金利が続くことの弊害だろう。

ローゼングレン総裁の考え方で興味深いのは、事業構造をあたかもALMのように見ている点だ。
資産(テナントへの賃貸契約の価値)と負債(不動産所有者からの賃借契約の価値)の性質の差に注目している。
平時には釣り合っているこれらが、景気後退期にはミスマッチを引き起こす。
本来なら、コワーキング企業にミスマッチの緩衝材としての役割を願いたいのだが、多くの契約で倒産隔離が図られており、コワーキング企業の責任は小さく限定されている。
総裁の目には、シェア・ハウス事業はサブプライム危機時の資産担保証券と似たものと見えているのかもしれない。

基本的に、現在存在する与信とはほぼすべてが低金利と好景気を前提としているはずだ。
問題は、審査基準に景気後退時のマージンを見ているかだ。

ローゼングレン総裁は、コストやリスクの顕在化を防ぐ難しさを滲ませる。

2つだけだが、比較的安定的な経済環境における超低金利が潜在的にもたらすコストの例だ。
レバレッジを上げ利回り追求しようという動機にはコストが伴うが、コストは停滞期が来るまでは目に見えない。


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