ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、ムニューチン米財務長官の(短期)ドル安容認発言を厳しく批判した。
政権の規律を批判したほか、ドル安を容認してはいけない3つの理由を説明している。
「短期的にはたいしたことではない。
しかし、どの財務長官にとっても信頼性は欠くべからざる財産だ。」
元財務長官が自身のサイトほかでためらうことなく現財務長官を批判した。
経済が良好な今でこそ火消しもできるだろう。
しかし、金融パニック・金融危機が勃発すれば、失言は命取りとなる。
そもそも歴代の財務長官は為替について発言を控えてきたとサマーズ氏は言う。
仮に発言する場合でも長期的な健全性を重視する形で慎重に準備されてきた。
為替についての政府における責任者たる財務長官が、原稿もなく短期的な見解から話し始めたことをサマーズ氏は問題視する。
さらに、責任者の発言と真逆のことを直後に商務長官が話すようでは、政権の信頼性が疑われるという。
ここまでは政権の規律の話だ。
では、経済面はどうなのか。
サマーズ氏は3点を挙げている:
- ドル安は米輸出価格を押し下げるが、同時に輸入価格を上昇させ、米所得の購買力を奪う。
「いかなる国家も減価させることで繁栄を得られたりはしない。」
- ドル安は米金利の上昇を意味する。
- ドル安になれば輸出が増える。
- 輸入価格上昇で物価が上昇すれば、FRBは利上げを迫られる。
- 世界の投資家がドル安を見込めば、ドル建て資産に高い利回りを要求する。
「金利が上昇すれば投資が減り、株価は下がり、金融の不安定化リスクが増す。」
- 雪崩のようにドル安が進むリスクがある。
ドル安が資産価格を下落させ、それがまたドル安を誘いかねない。
通貨安競争も心配される。
「為替に関する米独間のやり合いが1987年の株式市場のクラッシュの大きな要因になったと広く信じられている。」
1987年10月のブラック・マンデーのくだりを理解するには、プラザ合意・ルーブル合意を理解する必要がある。
1980年代半ば、双子の赤字を抱える米国で金融緩和が進められドルの魅力が低下、ドル相場が不安定化していった。
これを鎮静化させるため、1985年G5が協調的なドル安路線を進めることで合意したのがプラザ合意だ。
しかし、プラザ合意以降ドル安が急激に進み、その影響が各国で問題化した。
1987年2月のルーブル合意では、精緻な協調によりドル安のペースをコントロールすることが合意され、そのために各国の金融政策が協調することとなった。
しかし、インフレ懸念を抱えていた西ドイツの足並みはそろわず、金利を高めに誘導したため、市場は合意の有効性を疑問視するようになる。
これが米FRBの利上げ観測を生み、ブラック・マンデーの一因となったと言われている。
諸外国との協調とは、トランプ政権に最も欠けている要素だろう。