ジョセフ・スティグリッツ教授が、米産業界で進む市場の集中を心配している。
それを許した2つの経済学への批判にも言及した。
しかし、もっと深刻で根本的な問題は、市場の力の集中が進んでいることだ。
そうなれば、支配的な企業が顧客や従業員を搾取できるようになる。
従業員の交渉力や法的保護は弱体化しているのにだ。
CEOや上級幹部は自分たちの高額報酬を絞り出し、その付けを労働者や投資に回している。
スティグリッツ教授はProject Syndicateで、トランプ政権・共和党の政策の誤りをひとしきり批判した後、今回のテーマをズバリ提示している。
実体経済において進む独占・寡占だ。
これが格差拡大と密接に結びついているのだという。
スティグリッツ教授は、市場の力を強める要因がいくつかあるとし、2つを挙げている:
- ネットワーク効果の効きやすい産業: GoogleやFacebookなど。
- 企業経営者のメンタリティ: 収益力維持には市場の力が必須と考えている。
当然ながら、このいずれもが独占・寡占を生みやすい要因である。
歴史を振り返るまでもなく、独占・寡占とはさまざまな問題を及ぼす。
- 参入障壁が高まり、若い企業が育ちにくくなる。
- 技術革新のための投資へのインセンティブが弱まる。
- 自社株買いやM&Aに過度に資金が向かう。
- 格差が拡大し、総需要に悪影響が及ぶ。
- 代わりに政治に金を出しレントを得ようとする。
スティグリッツ教授は、米経済で十分な投資がなされていない理由の一端を市場の集中に求めているのである。
さらに、減税前からすでに実効ベースで低かった法人税率が、十分な投資を阻んでいるという。
インフラ、教育、医療、基礎研究など、将来の経済成長に欠かせない投資の原資が得られない。
仮にサプライサイド経済学が目指すような「トリクルダウン」があるとすれば、こうした投資から起こるのであって、金持ちを肥やすことから起こるのではないと断じている。
また、スティグリッツは経済学におけるもう1つの学派についても言及している。
過去半世紀にわたってシカゴ学派の経済学者は市場が概して競争的と仮定し、競争政策の焦点を、力と格差への幅広い懸念とするよりむしろ経済の効率ばかりに向けた。
経済学者がその欠陥を明らかにし始めた時になって、政界でこの仮定がはびこるようになったのは皮肉なことだ。
ゲーム理論や不完全・非対称な情報のモデルが発展したことで、競争モデルの根深い限界が白日の下にさらされた。
スティグリッツ教授によれば、解は簡単だという。
独占禁止法制の現代化と厳格な運用だ。
しかし、この簡単な解が米国では望めないという。
政財界が金で固く結ばれ、政治家が企業・産業の利益代表になっているためだ。
スティグリッツ教授は欧州に先導役を期待している。