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コロナショックがもたらす功罪:ロバート・シラー
2020年7月11日

ロバート・シラー教授の灰色の頭脳から流れ出る、強気でもなく弱気でもなく、目まぐるしく観点を変える語りが面白い。


株式市場というのはいつも経済活動と摺り合っているわけではないんだ。
今回は景気縮小の原因がウィルスということで異例のケースであり、経済にとって本質的なものではないと考えがちだ。
でも、私はそれ以上の影響があると考えている。

シラー教授がCNBCで、乖離しているように見える経済と市場の状況について尋ねられた。
教授はV字回復した市場について、まず大恐慌ナラティブが起こり、後にFRB・政府の政策によって方向転換したと解説した。
シラー教授にとって経済と市場が乖離することなど当たり前のことで、それをもって次の変化が予見できるなどと単純には考えない。
特に、今回の危機はかなり異例の性格を備え、異例の現象をともなっている。

個人の貯蓄率は年率数%増ぐらいを行き来していたが、4月には32-34%に急騰した。
こんなこと歴史上なかった。
これは大きな『不可知』だ。
こうした不可知は安心できるものではないはずなのだが、みんな前向きな物語に安心を感じているようだ。

この貯蓄率の急騰は、前例のない大規模な財政政策によって救済のための資金が個人に配られたことを反映するものだ。
「前向きな物語」とは、朋友ジェレミー・シーゲル教授らが予想する強気の経済・市場予想だろう。
コロナウィルスの脅威が払拭されれば、この貯蓄が支出され、それまでは一部株式市場に回る。

まさにバラ色のようにさえ聞こえるが、もちろんシラー教授は単純に楽観しない。
楽観的な事象を述べるときには、その裏側にありうることも必ず検証する。
教授がまず心配するのは《税制の崖》だ。

「3月27日のCARES法は失業保険の拡充を定めているが、これらが今月終わる。
そこで人々はどう行動するか?
もしも、どう呼ぶかは別として第2の局面に入り、再び閉鎖が起これば、2度目にはより悪い心理的反応が起こるかもしれない。」

もともとはしまり屋だった共和党がさすがにさらなる財政政策に及び腰になっている。
財政悪化だけの話ではなく、失業保険の上乗せが労働者の職場復帰の妨げになるとの見方があるからだ。
上乗せが廃止され、失業保険の支給期間も終わり、職場復帰が進んでも、仮にそれがパンデミックに対して早すぎることになれば、状況は再び悪化する。
逆戻りしてしまえば、この危機から立ち直ることの難しさばかりが感じられ、人々の経済活動にも影響を及ぼすだろう。

シラー教授は「より悪い心理的反応」を心配する一方、その裏側で起こりうることも予想する。
自宅にいる時間が増え、みんな互いに見栄を張り合う必要がなくなるという。

みんな毎日同じ服を着て、体裁を気にしなくなる。
リラックスできる。
コロナ・ショックが他の面でさほど憂鬱なものにならないなら、これはエピデミックの良い面でもある。

シラー教授が従前から主要なナラティブの1つに数えてきた「質素ナラティブ」だ。
教授は大恐慌でさえ良い面はあったとし、互いに飾らず思いやりを持つ習慣がそれだと指摘してきた。
こう指摘してきた背景には、もちろんそれに対するアンチテーゼの存在があった。

「過去4年とは異なる習慣・文化を生み出すだろう。
最新のファッションを見せつける必要もないし、速い新車に乗る必要もない。
リラックスしていいことを学んだんだ。」

これまで優勢だった見せびらかしナラティブが劣勢になりつつある。
たくさんお金を使って周囲に見せびらかすことが持てはやされる時代が終わるのかもしれない。
ナラティブにおいてもそうだし、国のリーダーにおいてもそうだ。
そう思えば、質素ナラティブの優勢は望ましいことのようにも思えてくる。

しかし、もちろんシラー教授は、その裏側の真実にも注意を喚起する。

でも、これは経済にとっては悪いことだ。

バブリーなことは良いことなのか、デフレ・マインドであっても質素倹約を美徳とすべきか。
これは、GDPのような指標が必ずしも国民の幸福を示すものではないというような指摘にもいくらか重なってくる。

シラー教授は両面を見つめ続ける。
コロナ・ショックの中で、人々が再びテクノロジーへの信仰を新たにしているという。
もちろんここにも両面がある。

この危機で勇気づけられたのは、テクノロジーが良い投資になっていることだ。
しばらく続くかもしれない。
これはインターネット・ブーム、ドットコム・ブームが盛り上がった1990年代終わりを思い出させる。


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