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ジョン・メイナード・ケインズ コロナウォーズ ケインズの帰還:ロバート・スキデルスキー
2020年3月25日

ケインズ研究で有名なロバート・スキデルスキー教授が、近時の財政拡大についてバランスのよい論評をしている。


こうした最近の『ケインズの帰還』ストーリーについて私は懐疑的だ。
1つには、緊縮を主義において否定するものとはなっていないし、1つには、新たに改宗した人のほとんどがケインズを単純に財政赤字と同義とみなしているためだ。
実際、ケインズの算数は、財政黒字も同じく指向するものだからだ。

スキデルスキー教授がProject Syndicateで、英政府の財政拡大を例にあるべき財政政策を論じている。
時宜をえない緊縮を批判する一方、安易な財政拡張も批判している。

スキデルスキー教授は、英政府から最近提案された5年間で25億ポンドをかける道路補修を例に批判する。
政策を実行することに反対なのではなく、もっと昔(2010年)から始めなかったことを批判しているのだ。
もっと前からやっていれば、道路の状態はよかったし、失業率も高くもっと効果が望めたはずだ。
教授は、この批判に対する言い訳を紹介する。

「よくある答は、2010年に政府には『その余裕がなかった』というものだ。
当時からの分別ある債務削減政策が、これを始めるための『財政的余裕』を今生み出してくれた、というものだ。」

スキデルスキー教授は、政府の行動が自身の定めた財政ルールによって制限されるべきではないと言いたいのだ。
政府が定めたルールによって、なすべき政策がなされないのはおかしいという指摘だ。
これは組織の決め事の話。
教授はもっと興味深い側面にも触れている。

「財政刺激策がもっと早く行われるべきだっただけではない。
今や経済サイクルの誤った時点で行われるリスクが存在する。」

スキデルスキー教授は、コロナウィルスの悪影響も、ウィルスなしでも景気後退になりうることも認識している。
だから、今が財政拡大のタイミングではないとは言わない。
しかし、少なくとも2010年は緊縮でなく拡大の時期だったと言いたいのだ。

さらに、景気後退が近づく中で、西側諸国でむしろ財政政策の余地が小さくなっていると警告している。
実際の財政に改善が見られ、コロナウィルス対策には大金を出していても、心の中では財政拡大に慎重なままなのではないか、スキデルスキー教授はそう疑っているのであろう。

しかし、これもスキデルスキー教授の今回の主題ではない。
教授の今回の主題は、財政拡大の後始末として不可避となる財政再建をどう行うべきかだ。
もちろん、刺激策を講じた結果景気が回復し税収が自然増となり財政問題が解決するなら理想的だ。
しかし、世界を見回す限り、そんな理想が実現した例はむしろ稀。
だから、各国ともに財政で困っている。

スキデルスキー教授は、債務問題について、インフレと増税のトレードオフを暗示する。
インフレが進んで政府債務の実質的負担が低下するのが1つの道。
増税によって政府債務を返済するのがもう1つの道。
教授は、1940年のケインズによるパンフレット『戦費の払い方』を紹介する。

英市民の消費が、物価上昇または増税によって削減されなければならない

仮に今後もインフレが脅威でないならば、どこかで増税せざるをえなくなるというのが、スキデルスキー教授の考えだ。
教授はさらに、世紀を超えて色あせることのないケインズの見識を紹介する。

「ケインズは、インフレより増税の方が『より公平』であることを理由に(最高限界税率97.5%の)険しい累進所得税を提唱した。
加えて、想像力のあるひねりだが、戦争後には最貧層から自動的に徴収した税金を政府から還付することを提案している。」

もちろん、スキデルスキー教授は将来の増税を心配しているのではない。
その逆で、現在の財政拡大を心配しているのだ。
これが単純に財政拡大が正解となる需要不足なのかどうか、疑問符がつくためだ。
各国首脳が戦争、非常事態という言葉を用いるのに関連し、教授はコロナ・ショックの重要な性質を指摘する。

戦時経済とは欠乏経済であり、銃もバターも手に入らない経済だ。
バターは、銃を増産するために、公平に配給されなければならない。
このため、問題は需要不足ではなく、一種の超過需要になる。

コロナ・ショックでは供給ショックと需要ショックが共存している。
確かに需要は減っているが、人々の需要に対する意欲・希望がなくなったわけではない。
これを需要ショックというべきなのか、供給ショックというべきなのか。
これを単純に需要ショックととらえたために、効率の悪い財政支出まで行えば、その反動としての増税はさらに重くなる。
(通常の増税であれインフレ税であれ)そういう増税の苦しみを一様に国民に負担させるのはいかがなものか。
スキデルスキー教授やケインズのメッセージはそのあたりにあるのかもしれない。


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