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コモディティ上昇は継続、家計は苦しく:佐々木融氏
2021年8月16日

JPモルガンの佐々木融氏は、コモディティ価格・エネルギー価格の上昇が今後も続く可能性を指摘し、そうなれば日本の家計・企業を圧迫すると話している。


コモディティやエネルギー価格の上昇基調はまだ続く可能性が高いと考えている。

佐々木氏がテレビ東京の番組で、コモディティ市場の上昇継続を予想した。

  • 超緩和的な金融財政政策: 「投資先に困った資金がコモディティやエネルギーに向かう」。
  • ドルのファンダメンタルズの弱さ: 経常赤字の拡大、マイナスの実質金利、相対的に大きな財政バラまきにより、ドルの実効為替レートは「長期的に見て下落基調が続く可能性が高い」。
  • 世界的な人口動態の変化: 労働者の減少で供給側のインフレ圧力が強まりやすくなる。
    「世界の投資家は、これまでのディスインフレを背景に、インフレヘッジができていないため、コモディティやエネルギーをもっと買う必要が出てくる」。
  • ESGによるエネルギー業界への投資減少: 「足元では化石燃料の使用量が減っていないのに、ESGが先行し、投資が行われなくなっている。
    つまり、過少投資で需給がひっ迫する可能性がある」。
    また、ESGに適う変化に必要なコモディティの需要が増大している。

1つ目・2つ目は(賛否は別として)市場ではよく語られる議論だ。
4つ目も一部で指摘されている(最近ではジム・ロジャーズ氏も言っていた)。
3つ目については両論あるかもしれない。
産業がどんどん人手を必要としなくなっていると見るなら、反論もありえよう。

佐々木氏は、今回の上昇傾向をサイクルと呼ぶことには疑問も呈している。
決まった周期で上下するサイクルというよりは、上記4つの要因が重なったことで起こる上げ相場と解釈すべきと話している。

ドル円と円の実質実効為替レート(いずれも上方が円高)
ドル円と円の実質実効為替レート

話が日本経済への影響に及ぶと、佐々木氏は、円の実質実効レートが1970年代前半と同水準まで低下している点を指摘した。
円が弱くなったことは家計にとってどう影響するのか。

こうした中でコモディティ・エネルギー価格がさらに上がると、円建てでみた価格は相当割高になるので、家計は苦しくなる。
今は時代も経済構造も変わっていて、日本経済が本当に恐れなければいけないのは円高ではなく円安だと思う。

佐々木氏は企業部門についても(ESG分野などの)輸入価格上昇により収益を圧迫されかねないと話している。
大昔とは異なり、日本企業は輸入に依存する割合が高まっており、必ずしも円安が望ましい状況ではなくなっているのだろう。

佐々木氏はコモディティ・エネルギー価格上昇に備えるためのいくつかの方法を挙げている:

  • 先物に投資
  • コモディティ・エネルギー価格上昇やインフレ率上昇時に恩恵を受けやすいセクターの外国株
  • (×)新興国通貨、コモディティ通貨

ただし、3つ目の外貨を買う選択肢については、注意も付している。

円が実質的に相当割安なので、単純に外貨だけを買うと、実質的に円の割安感が消えなくても、名目ベースでの円高が進む可能性があり、外貨建ての資産を買う必要がある。

身震いするほど難しい話をさらりと述べている。
これを読み込んでみよう。
理解しやすいよう、ドル円を例に説明する。

「実質的に円の割安感が消えない」とはどんな状態か。
これは、たとえば物価(または購買力平価)変化率の差の分だけ為替レートが動く状態だ。
仮に日米でインフレに1%の差があるなら、毎年ドル円レートが1%ずつ円高になっていく。
(私たちが日ごろ《ドル円レート》と言っているのは、通常、名目レートのことを指している。)
この期間、円の割安・割高の程度には変化はない。
しかし、過去の割安分は残ったままだ。
つまり、円は割安のままだが、ドル円は「名目ベースでの円高が進む」ことになる。
単純に通貨を買うだけだと、円高のために十分なリターンが得られるか心もとない。

リターンを生む外国資産に買った外貨を投じれば、それには相応の名目リターンが得られる。
名目リターンにはインフレ分が含まれる。
正しい銘柄選択をする限り「名目ベースでの円高」をオフセットできると期待される。

「円が実質的に相当割安なので」今後もさらに円が割安になるとの予想は分が悪いかもしれない。
だから、実質的には円安が進まないぐらいになるとのシナリオが生まれてくる。
実質的に円安が進まない場合、物価上昇率の差の分、名目では円高になる。

佐々木氏が奨めたヘッジ法は一般の投資家にとってはやや難易度の高いものかもしれない。
それは逆に、日本の投資家が追い詰められている状況を暗示しているともいえよう。
本来なら、極端に円安ならば、中央回帰での円高に賭ける選択肢もあってよいはずだ。
それがないのは、1つには政府・日銀の硬直的な経済政策の指向があるのだろう。
それを見透かして、投資家や企業の方も、せっせと外国への投資に勤しんでいる。
きつい言い方をすれば、生身の人間はともかく、日本のマネーは国を捨てつつある。

ただし、最近、特に賃金の分野で日本の安さが注目を集めている。
実験的政策を厭わない強いリーダーが現れれば、方針の大転換もありえない話ではない。
もしも、その可能性があるなら、円資産も悪い投資先とはいえなくなってくる。


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