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クルーグマンにはがっかりだ:ローレンス・サマーズ
2021年3月22日

ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、米経済政策について複線的な見方を呈示し、あわせて経済学者の姿勢に厳しい注文を付けている。


点火しようとしていたものが燃え上がったようなものだ。
私が心配を募らせているのは、米国がインフレになるか、かなり劇的な財政・金融政策の衝突を迎えるかだ。

サマーズ氏がBloombergで、バイデン政権とFRBの経済政策が米経済の過熱を引き起こす可能性について心配を募らせている。
同氏は、現在のマクロ経済政策を「過去40年で最も無責任」と批判し、「頑なな民主党左派と、頑なで完全に不合理な共和党の態度によって動かされている」と解説した。
財務長官経験者であるサマーズ氏は、与野党でどのような取引がなされ政策が決定されたか、理解していると話す。
その一方で、それが大きなリスクを生み出していると指摘する。

今回のサマーズ氏の発言で最も優れているのは、同氏が複線的な視点を提供している点だ。
民主党も共和党も、自分たちの主張について「頑な」だ。
しかし、社会や経済とは100%予見できるものではないし、実際の確度ははるかに低いものだ。
サマーズ氏は、現在の政策の帰結について確率分布をともなって予想する。

1/3の確率で、今後数年にわたりインフレが大きく加速し、1966-69年の間にインフレが1%台から6%台に変化し顕在化した時のように、スタグフレーション的な状況になるだろう。
1/3の確率で、インフレが起こらない可能性もあるが、インフレにならない理由は、FRBが強くブレーキを踏み、市場がとても不安定になり、経済が景気後退近くまで滑り落ちるためだ。
約1/3の確率で、FRBと財務省が望むようになり、インフレを起こさないようなやり方で急激な成長が実現するだろう。

サマーズ氏は、自身の心配が杞憂に終わり、政権の思惑が実現する可能性も認めている。
ただ、その確率を100%と踏むか、1/3と見るかは大きな違いだ。

サマーズ氏は、経済政策論争において孤軍奮闘の状況にある。
かつてのハト派の盟友たちの多くは、ひたすらハト派を続け、内ゲバという言葉を思い起こさせるように、サマーズ氏を批判する。
それでももちろんサマーズ氏は共和党のサプライサイダーたちとは全く異なる。
声が小さくなった中道で、大きな声を上げ続ける稀有な存在だ。

かつてのハト派の盟友ポール・クルーグマン教授は、最近サマーズ氏と論争といってよい状況に入っている。
教授はBloombergにおいて、ポルカー・ショック前のインフレ昂進に至る過程を念頭に、インフレの可能性について話している。

「インフレ期待とは、アンカーが外れるのに長い時間がかかる。・・・
そうなるには、混乱続きで10年以上の時間がかかる。
再びそうなるとは思わない。」

クルーグマン教授とサマーズ氏の考え方の相違は明らかだ。
クルーグマン教授は1つの結果を主張し、サマーズ氏は複数の結果をもとにリスクを主張する。
クルーグマン教授の予想の確かさは日本経済、トランプ・ラリーなどで証明済みだから、一層心配したくなる。

サマーズ氏は、現在のマクロ経済政策がかつてないほど大きなリスクを孕んでいると指摘する。
それは、トランプ政権以降のプロ・シクリカルな政策態度だ。

過去にもひどく重大な時期があったが、マクロ経済政策は状況を安定化させようとしていた。
今では、マクロ経済政策が状況を大きく不安定化させるリスクがある。

金融・財政政策が、短・中期的な安定化政策から、慢性的な刺激策へと変化しそうな気配がある。
ケインズの提唱以来、景気循環が急激になりすぎないためのものだったはずが、山を高くし、結果的に谷を深くしかねない状況にある。

サマーズ氏は、ポール・クルーグマン教授の楽観的な見方に対するコメントを求められ、明確に反論した。

「単純に彼は間違っている。
1966-69年を見直すといい。」

米都市部CPI
米都市部CPI

クルーグマン教授は、1966-80年というスパンでインフレを見て、インフレ昂進には10年以上かかると主張した。
しかし、1966-69年を見れば、わずか3年ほどで4-5%のインフレ上昇が起こっている。
教授・政府・FRBはこの幅のインフレを歓迎できるのだろうか。
もしも歓迎できないなら、サマーズ氏の2つ目のシナリオの実現可能性が高まることになる。

サマーズ氏は、ハト派の楽観的なロジックが理解できないと当てこする。
インフレ期待がアンカーされているという主張に疑問を投げかける。

「彼らは全く新しい政策の時代にあると言う。
新自由主義の時代は終わり、新たなプログレッシブの潮流も過去になったと。
もしも、完全に新たな政策の時代になったのなら、みんな期待の方向を再設定するはずだ。」

もっとも、未来がどのようなものになるのかを確実に予想するのは不可能だ。
だからこそ、サマーズ氏による3つのシナリオの呈示には意味がある。
3つのうち2つがハッピー・エンドでない点を無視すべきではない。

サマーズ氏は、経済学者の姿勢そのものにも厳しい注文を付けている。

経済学者、とりわけ政府外にいる経済学者のよりよい立ち位置とは、政治的に便利な正当化のために経済を分析することではない。
率直にいって、この議論の政治的側面に引き寄せられたポール・クルーグマンや多くの経済学者にはがっかりだ。
繰り返すが、この議論の政治的側面に関して彼らは完全に正しいかもしれないが、彼らは経済的なリスクを評価していない。

政治家が、自分に都合の悪いことをいう学者を排斥し、都合のよいことをいう学者を御用学者として優遇する社会も困りものだが、そうした蜜や自身のイデオロギーのために学者の命であるはずの学問的見解を曲げる者がいるなら、それも大いに憂うべきことだろう。


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