ヘイマン・キャピタルのカイル・バス氏が、香港ドルの米ドル・ペッグが外れることに賭けるファンドを月初からローンチした模様だ。
Bloombergによると、同ファンドが採用するのは、香港ドルのオプションを用い、200倍のレバレッジを賭けるストラテジーだという。
ファンドの想定リターンは
- 香港ドルが40%下落の場合64倍
- 1年半後もペッグされたままなら全損
だという。
ある種のクジのような商品設計だ。
香港ドルは(中央銀行でなく)民間3行により発行されている(10ドル札のみ政府が発行)。
1983年以降、US$ 1=HK$ 7.8にペッグされ、2005年5月よりHK$ 7.75-7.85の狭い許容範囲の中で小幅な変動をしている。
香港金融管理局は、この許容範囲に収めるよう売買を行っている。
発行銀行3行は香港ドル発行時に米ドルを預託する必要がある。
このカレンシーボード制により、香港ドルは米ドルの裏付けを得ていることになる。
米国をはじめとする西側各国は、中国が香港に国家安全法制導入を求めていることを強く批判している。
一国二制度の原則が骨抜きになるのが明らかだからだ。
一方の中国は、内政問題として強硬な姿勢を続けている。
この問題に折り合いをつけるのは難しい。
米国は対立の中、これまで香港に与えてきた優遇措置を廃止すると中国に圧力をかけている。
中でも、米国が米ドルの流通に制限をかける可能性が取りざたされている。
発行銀行が自由に米ドルを入手できなくなれば、カレンシーボード制が維持できなくなり、ペッグが崩壊するのではとの思惑だ。
香港経済のプレゼンスが中国全体の中で小さくなっているとしても、香港市場の果たす役割は大きい。
香港は外国から中国本土への資本流入を支えている。
つまり、外国人に投資機会を提供し、中国人に資本を提供している。
また、中国人に自由度の高い投資機会を提供している。
その香港から通貨が失われれば、影響は計り知れない。
もちろん、香港ドルは香港自体にとって命綱だ。
香港政府も不安を払拭するのに躍起になっている。
すでに手厚い準備資産に加え、中国の莫大な外貨準備からドルを調達するやり方もあると主張する。
これに対するのが、バス氏のように香港ドルのペッグがはずれ下落に転じることに賭ける投機家たちだ。
ただし、こうしたアイデアは、アジア危機なども含め、古くから存在した。
にもかかわらず、香港ドルは対ドルで驚くほど安定した推移を続けてきた。
「40%下落の場合64倍」というレバレッジの賭け方を見ても、実は大きな下落を見込んでいないのではないかとの勘繰りも働く。
もっと小幅、例えば許容幅の変更などでも収穫できるよう、高いレバレッジがかかっているのではないか。
バス氏は取材を受けていないので、真実は闇の中だ。
バス氏は近年、投資家というよりは反中活動家としての露出が多くなった。
昨年までは実質的な人民元ショートのポジションを取っていた。
それを閉じるのと前後して、オルタナ右翼スティーブン・バノン氏とともに、CNBCで中国批判を展開した。
この中国批判がポジション・トークだったのか否かも闇の中だ。
果たして今回、バス氏は投資家なのか、活動家なのか?