政治

ロバート・スキデルスキー ウィルス封じ込めという欺瞞:ロバート・スキデルスキー
2020年5月20日

ケインズ研究で有名な、経済学者で英上院議員のロバート・スキデルスキー教授が、各国のコロナウィルス対策の背景にある政治指導者の本音を暴いている。


「何人かの例外を除き・・・ほとんどの政治指導者はウィルスと戦うのに『科学』に隷従している。
もっとも顕著な例は英政府だ。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者が、パンデミックとの闘いで何もしなければ550千人もの人々が死ぬだろうと、悪夢のような予想をしたことで、3月23日に積極的ロックダウン政策に転換した。」

スキデルスキー教授がProject Syndicateで、コロナウィルスに対する戦略について本音ベースで語っている。
国会議員の立場にある人が本音で語っているところが新鮮だ。

まず、英国のコロナ対策についておさらいしておこう。
コロナ・ショック初期、英国はロックダウンなど社会的隔離より集団免疫の確立によってウィルスを克服しようと考えていた。
大きな代償を払って感染予防をするのではなく、感染したら対症療法で対応しようというものだ。
軽症の人、完治した人が増えれば、免疫を持った人たちがさらなる感染の盾となってくれるという考えだ。
こうした考えが選ばれたのは、当初このウィルスがそれほど深刻でないと伝えられていたこともあろうし、社会生活を止める代償が大きすぎるとの思いもあったのだろう。
しかし、英政府はこの方針を3月下旬に放棄した。
いくつかの前提が成立せず、このやり方だと人的被害が重大になることを認めたのだ。

スキデルスキー教授がジョンソン政権に批判的なのは間違いない。
しかし、教授の批判の先は同政権だけでもないようだ。
各国が「『科学』に隷従している」と書いていることから、政治家と科学の関係について一言あることがわかる。

ほとんどの国はロックダウンを選び、ほとんどの国民をウィルスの通り道から除けさせ、宿主をなくそうとした。
しかし、欧州がロックダウンに入り2か月経って証拠が示すのは、これらの方法だけでは大きな医学的効果がないということだ。

スキデルスキー教授は、社会的隔離だけではウィルスの封じ込めはできないという。
それは欧州各国の政策と結果に表れている。
かならずしも厳しいロックダウンを行った国が軽度で済んでいるわけではない。

「科学は、各国がコロナウィルスに対してどのような対応をすれば正しかったのかを決めることはできない。・・・
例えば医療のキャパシティや文化的特徴を含む、あまりにも多くの変数がモデルをかき回し、暴走ロボットのようなシナリオ・予想を吐き出し始めるのだ。」

何が言いたいのか。
ある国においてロックダウンを厳しく行い、長く続ければ、それだけ感染・重症化・死亡は減るのだろう。
しかし、その感応度は国や地方によって異なり、説得力のあるモデルなどすぐには見いだせない。
つまり、科学による予想の正確性・説得力にあまり期待すべきではない。

さらに、政策にはつねにコストがともなう。
どこまで厳しく長くすれば最適かは、コスト面を無視できない。
もちろん、いつあらゆる場合でも人命・健康が無制限で絶対的に最優先とするならば答は簡単だ。
ワクチンと治療薬ができるまで、すべての人を外出禁止にすればよい。
もっとも、そうすれば生産・物流が停止し、そのために健康を害し、死に至る人が出てくるのだろう。
つまり、どのような優先度を置くとしても、どこかに理論的には最適解が存在する。
(感染モデルでさえ正確なものが存在しない以上、経済まで含めた最適解を知ることは不可能だ。)
もちろんそれは科学者の範疇の話ではない。

スキデルスキー教授は、決断を下すべきは科学者ではなく政治指導者であるべきだと言いたいのだ。
だから、「『科学』に隷従」する体を取る政治家をあてこすっているのだ。

「コロナウィルスの政治とは明らかだ:
政府は自然な感染拡大のリスクを取れず、重症・死亡のリスクが最も高い人たち、つまり人口の15-20%にあたる65歳超の人たちを隔離するのがあまりにも複雑または政治的問題をともなうと考えている。」

スキデルスキー教授がこの「政治」を是とするのか否とするのかは明記されていない。
しかし、読む限り、各国政府の弱腰を責めているように見える。
教授は、老人たちをあらかじめ隔離し、その上で集団免疫を模索する方策を選択肢として残したかったのではないか。
それは、現行の各国政策の欺瞞を暴くような記述からうかがわれる。

デフォルトの政策対応は、ワクチンができるまで自然免疫の拡散を鈍化させるというものだった。
『カーブの平坦化』が本当に意味するのは、医療機関が対応できワクチンが投入できるように、予想される死亡数を長期間に分散させることなのだ。・・・
政治指導者のいうロックダウンの『コントロールされた緩和』とは、実際にはコントロールしつつ集団免疫に向かわせることだ。

つまり、英国は路線を転換したのではなく、以前の路線をだらだら引き延ばし、それを見栄えのいいオブラートにくるんだだけといいたいのだ。
各国政府の本当の狙いも同じところにあるというわけだ。
スキデルスキー教授は、そう長く経済を止めておくことはできないと見切っている。
ならば感染は止まらない。
つまり、死亡者数を減らすのではなく、長い期間に分散させるにすぎない。
教授は、政治指導者の内心を暴露する。

政府はこれを公には認めない。・・・
感染が免疫を与えるのか、どれだけ時間がかかるのかさえわかっていない。
それならば、黙ってあいまいにしたままこの目標を追求し、ほとんどの人口が感染する前にワクチンができるのを願った方がはるかに良いのだ。

日本でもコロナウィルスに対する政策についてはずいぶんとレベルの低い議論が続いている。
政治をする側も国民の側もだ。
1つの原因は、そもそも何を求めるのか、本音と建前の差がありすぎる、あるいは国家としてのコンセンサスがないところにあるのかもしれない。


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